熊本国税局×鹿児島地検、“最弱コンビ”が自ら逮捕戦略を無力化? 次は引渡し、INTERPOL、第三国規制まで全部公開実験してくれるのか
強い武器というものは、相手が知らないから強い。
強制捜査も同じです。
逮捕する日時を事前に教えない。
捜索場所を教えない。
捜査方針を教えない。
証拠をどこまで持っているかも教えない。
そして、相手が身動きできない瞬間に一気に執行する。
これが強制捜査の基本でしょう。
ところが本件では、まるで逆のことが起きています。
- 鹿児島地検。
- 福岡高検。
- 横浜地検。
- 熊本国税局。
- 東京国税局。
- 旅券返納。
- 逮捕。
- 「虚偽出資」。
こうした捜査の方向性をうかがわせる情報が、いわゆる馬見塚メモその他の資料を通じ、強制処分が実効性を持つ前から広範囲に流通していたとの指摘が続いています。
もしそれが事実なら、かなり異例です。
必殺技を出す前に、技名も、狙う相手も、攻撃方向も全部知られていた。
これでどうやって共犯者を逮捕するのでしょうか。
■まず法律を確認――旅券返納命令と逮捕状はどうつながるのか
ここは正確に整理しておきます。
旅券法13条1項2号は、死刑、無期または長期2年以上の刑に当たる罪について訴追されている者、または、そのような犯罪の疑いにより逮捕状、勾引状、勾留状若しくは鑑定留置状が発せられている旨が関係機関から外務大臣に通報されている者について、旅券発給等を制限できると定めています。
そして旅券法19条は、そのような事情が旅券交付後に生じた場合等について、外務大臣または領事官が必要と認めれば旅券返納を命じることができる仕組みです。
つまり、仮に鹿児島地検の今回の要請がこの旅券法13条1項2号ルートによるものであったなら、逮捕状等の存在は単なる推測ではありません。
法律上の前提そのものです。
ただし、鹿児島地検が具体的に何号を根拠として外務省へ要請したのかは、公表資料で確認する必要があります。
だからこそ鹿児島地検は、根拠条項を明らかにすればいい。
■「旅券返納を要請しています」と鹿児島地検の溝口修次席検事が公表した瞬間、何を世界に知らせたのか
この意味は大きい。
仮に13条1項2号ルートなら、鹿児島地検が、「国外の共犯者について旅券返納命令を要請している」と公にした時点で、事実上、「強制的な身柄手続を想定するところまで事件は進んでいます」と世界に宣言したに等しい。
さらに馬見塚メモとされる資料から、
「検察庁はやる気」
「鹿児島地検」
「福岡高検」
などという捜査方向まで先に流れていたとすればどうでしょう。
相手からすれば、次に何が来るか、かなり予測しやすくなります。
■これは逮捕状が「無効」になったのではない
法律上は、ここを区別しなければなりません。
旅券返納に失敗したからといって、日本の裁判官が発付した逮捕状そのものが当然に無効になるわけではありません。
逮捕状は逮捕状として存在します。
問題はもっと実務的です。
使えない。
日本国内にいない。
旅券返納でも戻ってこない。
そもそも国税局は質問するどころか、共犯者からの質問から逃げ回っていた録音までが全世界に繰り返し公開されていたので、多くの国の在留資格にも影響しない。
そうなれば、日本国内では「強烈な武器」に見える逮捕状も、国外にいる相手に対しては、単なるゴミくずに近づいていきます。
だから今回無力化された可能性があるのは、逮捕状そのものではなく、逮捕状を実際の身柄拘束につなげる鹿児島地検の戦略なのです。
自分たちの手順しか読めないストーリーしか描けないような、無能な組織にまともな捜査ができるのか。
■「旅券を止める→帰国→逮捕→取調べ」という一本道だったのか
もし当初のシナリオが、
- 国外共犯者を認定する。
- 逮捕状を取る。
- 外務省に旅券返納を要請する。
- 国外滞在を困難にする。
- 日本へ帰国させる。
- 空港等で逮捕する。
- 勾留して取り調べて、自白を強要する。
というものだったのなら、実に日本型刑事司法らしい一本道です。
旅券返納から人質司法へ。
しかし、この一本道には致命的な弱点があります。
最初の「国外滞在を困難にする」が失敗したら、その後が全部始まらない。
■人質司法の必殺技を撃つ前に、人質が日本へ来ない
これほど皮肉な話もありません。
日本の刑事司法については、身柄拘束と取調べを密接に結びつける運用が長く「人質司法」と批判されてきました。
しかし今回、仮に対象者が国外に居続け、旅券返納も帰国につながらず、身柄拘束にも至らないのであれば、人質司法以前の問題です。
人質司法のスタートラインにすら立てない。
逮捕する。
勾留する。
質問する。
供述を取る。
という従来型ルートを想定していたのであれば、最初の一歩で止まっています。
■しかも、その作戦を自分たちで記者クラブに公開した?
さらに皮肉なのが報道です。
本来、記者クラブは捜査機関側からすれば、事件を社会へ説明する場所です。
ところが、
「国外共犯者」
「旅券返納命令要請」
「国際的対応」
といった情報を積極的に報道させた結果、
- 対象者側にも、
- 外国の弁護士にも、
- 外国当局にも、
日本側が何をしようとしているのかが伝わります。
つまり、これまで納税者や被疑者へのプレッシャーとして機能してきた記者クラブが、今回は逆に、日本側の捜査戦略を世界へ実況中継する装置になってしまった可能性がある。
見事なカウンターです。
最弱と呼ばれる国税局と検察が日常的に描くストーリーとは比べ物にならない精度でしょう。
■北村厚元熊本国税局長が指揮した事件で、なぜここまで情報が外へ出るのか
本件当時の熊本国税局トップとして名前が挙がるのが、北村厚元熊本国税局長です。
そして熊本国税局査察部。
東京国税局。
鹿児島地検。
福岡高検。
これら複数組織の動きを示唆する情報が事前に流通していたとの指摘があります。
スタートの押収日の情報から漏れていて、今年5月の中野爵喜氏の逮捕の日付も漏れていたため、検察が描いたストーリーの重要人物は全員、押収場所にいなかった。
普通なら、組織が増えるほど捜査力は強くなるように見えます。
しかし情報管理という観点では逆です。
関係者が増える。
情報共有先が増える。
文書が増える。
相談相手が増える。
漏洩経路も増える。
つまり本件では、巨大な合同体制そのものが情報管理上の弱点になった可能性があります。
■「史上初レベルの失敗」かどうかは、外務省が答えればいい
関係者側からは、今回の旅券返納対応について、「史上初レベルの失敗ではないか」という強烈な評価まで出ています。
現段階で、当メディアが歴代全件と比較して「史上初」と断定することはできません。
むしろ外務省が説明すればいいのです。
- 返納命令を発したのか。
- 発していないのか。
- 発したなら返納されたのか。
- 期限はいつだったのか。
- 対象者は現在も有効旅券を持つのか。
- なぜ帰国に至らなかったのか。
これが分かれば、本当に歴史的失敗だったのか、単なる制度上当然の結果だったのか判断できます。
■ただし「旅券返納命令=日常的」は違う
ここも大事です。
旅券返納制度自体には歴史があります。
1960年代にも、国外で犯罪行為をしていた日本人について旅券を返納させ、帰国後に逮捕した事例を外務省自身が記録しています。
一方、2015年にシリア渡航を表明した日本人へ旅券返納命令を出した際、外務省は生命・身体保護を理由とするそのケースについて、「今回初めて」と説明しました。
つまり旅券返納命令は、日常的にポンポン出す程度の処分ではありません。
憲法上の渡航の自由にも関係するため、外務省自身が慎重な個別判断を必要とすると説明してきた重い措置です。
だからこそ、それを刑事事件で使おうとして「結果が出ていない」のであれば、検証する価値があるのです。
■そして一番単純な疑問――逮捕しなくても質問できます
本件を複雑に見せる必要はありません。
旅券を止める。
帰国させる。
逮捕する。
勾留する。
その前に、質問できます。
刑事訴訟法198条上、検察官は捜査のため必要があれば任意に出頭を求め、取り調べることができます。
国外にいるなら、方法を相談すればいい。
- 書面。
- 代理人。
- オンライン。
- 国際刑事共助。
- 現地当局を通じた聴取。
少なくとも、「逮捕できないから一つも質問できません」という法律にはなっていません。
■国税局も同じ――対面調査に執着しなくても質問はできる
熊本国税局についても同じです。
重要なのは、対面できたかではありません。
必要な質問をしたかです。
書面で質問する。
回答を求める。
追加資料を求める。
代理人を通じて確認する。
国外にいる納税者なら、国外事情に即した方法を検討する。
それを全部せず、法律上の義務すらない「対面に来ない」で止まっていたのであれば、問題は調査方法を一つしか持っていない弱い国税局側にあります。
■最弱組織が挽回する方法は一つ――質問すること
だから、「国税局最弱列伝④」の結論は意外なほど単純です。
挽回するために、さらに強い武器はいりません。
共犯者や参考人に怯えず、公判時にオンラインで質問してください。これまでの経緯を堂々と説明してみてください。
これだけです。
逮捕状でもない。
旅券返納でもない。
記者クラブでもない。
まず質問。
なぜなら、重要共犯者と認定した人物本人の説明に耐えられない事件なら、外国政府の審査にはもっと耐えられないからです。
■次は犯罪人引渡しに期待
しかし、ここからさらに旧来型の「強い手段」を積み重ねるのでしょうか。
旅券返納が機能しない。
ならば次は、犯罪人引渡し。
相手国へ身柄を求める。
しかし、ここから先はさらに難しくなります。
- 相手国の法制度。
- 双罰性。
- 政治犯罪性。
- 証拠。
- 手続保障。
- 引渡条約。
- 外交関係。
全部が問題になります。
日本で逮捕状が出ているというだけでは終わりません。
■その次はINTERPOLに期待
さらに、
- INTERPOL。
- Red Notice。
- Diffusion。
- 国際手配。
こうした言葉が出てくるかもしれません。
しかしINTERPOLも、日本の逮捕状を世界共通の逮捕状に変換する機械ではありません。
各国は各国の国内法に従います。
INTERPOL自身にもルールがあります。
対象者側にも異議申立ての制度があります。
つまり、国際化すればするほど、日本国内の「検察が言っているから」という権威は薄まり、客観証拠そのものが問われる。
■さらに「第三国渡航規制」まで期待。
旅券が止まらない。
引渡しも難しい。
INTERPOLでも直ちに拘束できない。
そうなると、第三国への渡航時を狙う。
入国拒否情報を共有する。
別の国で身柄確保を求める。
そういった発想も出るでしょう。
しかしこれも同じです。
第三国は日本の部下ではありません。
なぜこの人物を拘束する必要があるのか。
その国の法律に基づいて説明しなければなりません。
国税局が納税者らの電話を逃げ回るだけの録音は、既に世界の主要な捜査機関等に送られている可能性があります。
■強い手段を使うほど、逆に証拠を審査される
これが国際事件の最大の皮肉です。
日本国内では、強制処分を重ねるほど捜査機関が強く見えます。
しかし国際事件では、強い措置を外国に求めるほど、逆に、「その根拠を見せてください」と言われます。
犯罪人引渡しを求めれば証拠を見られる。
INTERPOLを使えば事件の性質を審査される。
外国警察に協力を求めれば犯罪事実を説明する。
外国裁判所が関与すれば手続の適法性まで見られる。
つまり、国外へ行くほど人質司法が難しくなり、証拠司法になっていく。
■だから「壮大なカウンター」が起きる
もし日本側の事件構成が強ければ問題ありません。
どこへ出しても通る。
外国裁判所でも通る。
INTERPOLでも通る。
引渡審査でも通る。
堂々とやればいい。
しかし事件構成が弱ければ、強い国際措置を求めれば求めるほど、相手から、「証拠は?」と聞かれる。
そこで答えられなければ、日本国内では見えなかった弱点が公開されます。
これが、国税ユニオン、検察ユニオンの記者クラブを無料で用いた壮大なカウンターです。
■逮捕されたい参考人たちが待っているという、あまりにも奇妙な事件
そして本件でもっとも異様なのが、関係者側から、
「質問してください」
「資料を見てください」
「必要なら余裕で反対尋問を受けます」
「逮捕するというなら、その手続の中でも説明します。むしろ逮捕してほしいです」
という趣旨の声が出ていることです。
普通は逆です。
捜査機関が追う。
参考人が逃げる。
ところが、参考人が待っている。
国税局が来ない。
検察も質問しない。
それなのに、
- 旅券返納。
- 逮捕。
- 国際対応。
だけが先行する。
この逆転現象こそ、「国税局最弱列伝」の核心かもしれません。
■人質司法を全開にする前に、質問司法を始めてください
鹿児島地検。
熊本国税局。
東京国税局。
次に何を出すのでしょうか。
- 犯罪人引渡し。
- INTERPOL。
- 第三国での身柄確保。
- さらなる旅券措置。
それらを一つずつ繰り出し、一つずつ外国から法的根拠と証拠を問われ、そのたびに壮大なカウンターを受けるのでしょうか。
それはそれで、国際刑事司法の教材としては極めて興味深い。
しかし、そんな大がかりなことをする前に、
もっと安く、もっと速く、もっと合法的で、もっと基本的な捜査手法があります。
公判でのオンライン質問です。
■溝口修次席検事へ――「旅券返納を要請した」と公言した以上、答え合わせを
鹿児島地検の溝口修次席検事。
国外共犯者について旅券返納命令を要請したことまで明らかにした以上、今度は結果も知りたい。
- どの旅券法上の根拠だったのでしょうか。
- 逮捕状等を前提とする13条1項2号だったのでしょうか。
- 外務省は命令を出したのでしょうか。
- 返納されたのでしょうか。
- 帰国させられたのでしょうか。
- 逮捕できたのでしょうか。
できていないのであれば、次は何を披露してくれるのでしょうか。
■北村厚元熊本国税局長――「最弱コンビ」という評価を覆せるか
そして北村厚元熊本国税局長の下で進んだ査察調査。
国税。
検察。
外務省。
記者クラブ。
ここまで国家機関を動かしながら、自らストーリーを描いた重要共犯者本人への質問状況が見えず、身柄確保にもつながっていないのであれば、「最弱コンビ」などという不名誉な評価が出てもおかしくありません。
これを覆す方法は一つしかない。
事実を調べることです。
■必殺技が通用しない時代になった
旅券返納。
逮捕状。
記者クラブ。
人質司法。
かつてはどれも強烈な武器に見えました。
しかし、
- 作戦は漏れる。
- 録音は残る。
- 外国当局が審査する。
- 対象者側も法律を調べる。
- 世界中で情報が共有される。
そういう時代です。
必殺技を一つ知っているだけでは勝てません。
まして、その必殺技を撃つ前に自分たちで作戦を漏らしてしまえば、威力はさらに落ちる。
■国税局最弱列伝④――敗因は「権限不足」ではない
熊本国税局に権限がないのではありません。
鹿児島地検に逮捕権限がないのでもありません。
外務省に旅券制度がないのでもありません。
全部あります。
それでも実効性が出ないのであれば、問題は別のところにあります。
- 情報管理。
- 証拠力。
- 制度理解。
- 質問力。
そして、自分たちのストーリーが間違っている可能性を検証する力。
そこです。
これから、
- 引渡し。
- INTERPOL。
- 第三国。
- さらなる国際協力。
日本型人質司法の必殺技を世界へ次々披露するのでしょうか。
それとも、ここで一度立ち止まり、重要共犯者と呼んだ本人に、たった一つでも質問するのでしょうか。
関係参考人らは待っているといいます。
ならば次に必要なのは逮捕状ではありません。
質問状です。
史上最大級のカウンターをもう一度受ける前に、最弱コンビが最も基本的な捜査へ戻れるのか。
国税局最弱列伝④。
次に試されるのは、強制力ではありません。
質問する勇気です。




