熊本国税局による、ある事案の運用について、当ユニオンは正式に問題提起します。
論点はシンプルです。国税局は、長(局長)が前面に立つのではなく、現場担当者がすべての対面調査を代行する「担当者制」を徹底しています。そしてその担当者は、頻繁に異動します。この組み合わせが、いま何を生んでいるか——順を追って整理します。
事実関係の整理
当ユニオンが把握している範囲で、本件には次のような事実があります。
- 嶋崎剛統括官は、押収物について「見当たらない」と発言した。
- 川口延洋主査は、「押収物が欲しければ対面調査に来い」という趣旨の発言をした。
- この二名は、馬見塚税理士を介して、検察情報に関わる虚偽の情報を漏洩した。
- そして、これら一連の動きの指揮を執っていたのは、北村熊本国税局長である。
ここから、法律論に入ります。
論点1:国家行政組織法・国税通則法上、責任は組織に帰属する
国税局は行政組織です。行政組織の権限行使と責任は、属人的にではなく、組織として帰属します(国家行政組織法の趣旨、行政手続法、国税通則法の各規定参照)。
担当者がどれだけ交代しようと、
- 統括官が異動しようと、
- 局長が転出しようと、
過去にその組織として行った行為について、現在の熊本国税局は完全な説明責任を負い続けます。これは法的常識であり、議論の余地はありません。
「当時の担当者はもうおりません」
「異動しましたので把握しておりません」
——こうした応答は、組織責任の連続性の前で、法的に成立しません。
論点2:押収物の保管義務(刑事訴訟法222条準用、国税犯則取締法系の規定)
押収物については、当局に厳格な保管義務があります。「見当たらない」という発言は、それ自体が極めて重大です。
押収物の滅失・所在不明は、
- 適正手続違反(憲法31条)
- 財産権侵害(同29条)
- 国家賠償法1条1項上の違法評価
- そして場合によっては、公用物毀棄(刑法258条)・職権濫用(刑法193条)の構成要件該当性
を問題にしうる事象です。「見当たらない」で済む話ではありません。押収した瞬間から、当局はその物の所在・状態について、無期限の説明責任を負っています。
そして、「押収物が欲しければ対面調査に来い」という発言は、押収物の返還を、調査出頭の取引材料にしていると解される表現です。これは適正手続上、正面から問題化できる発言です。押収物の返還は、要件を満たせば当然になされるべきものであって、別件の調査受諾と引き換えにする性質のものではありません。
論点3:守秘義務違反と検察情報漏洩(国家公務員法100条、国税通則法126条)
検察に関わる情報を、税理士を介して第三者に漏洩する行為は、
- 国家公務員法100条1項(守秘義務)違反
- 国税通則法126条(税務職員の守秘義務)違反
- 内容が虚偽であれば、名誉毀損(刑法230条)・信用毀損(同233条)
- 職務上の地位を利用していれば、職権濫用(同193条)
の各構成要件に該当しうる行為です。これも「担当者個人の問題」では済みません。指揮命令系統の上位にいた者の責任が、当然に問われます。岡氏はすべて北村局長に報告していると繰り返し回答した以上、北村局長が指揮を執っていたことは明確であり、すべての責任は局長にまで及びます。
論点4:違法性の嫌疑が双方に発生している以上、「異動」による免責など法理論上ありえない
ここが、本声明の理論的中核です。
まず、現状を直視してください。本件において、違法性の嫌疑は、納税者側だけでなく、当局側にも発生しています。
当局側に生じている嫌疑を、具体的に列挙します。
(1)虚偽の検察情報の漏洩
検察が逮捕の方針を示していないにもかかわらず、「検察が逮捕すると言っている」という趣旨の情報を、税理士を介して関係者に流した行為。これは、
- 国家公務員法100条1項(守秘義務)違反
- 国税通則法126条(税務職員の守秘義務)違反
- 刑法230条(名誉毀損)・233条(信用毀損)の構成要件該当
- 刑法193条(公務員職権濫用)の構成要件該当
- 内容によっては刑法156条(虚偽公文書作成)・157条(公正証書原本不実記載)類似の評価
を生じさせる行為です。
(2)押収物の紛失
「押収物が見当たらない」という発言は、保管義務違反そのものです。
- 国家賠償法1条1項の違法評価
- 刑法258条(公用文書等毀棄)の構成要件該当
- 刑事訴訟法上の手続的瑕疵(押収物還付義務違反)
- 適正手続違反(憲法31条)
- 財産権侵害(憲法29条)
(3)質問検査権の不行使と「脱税犯」評価
国税通則法上の質問検査権(74条の2以下)を適正に行使せず、つまり当事者から事実関係を聴取することもなく、「脱税犯」として扱い、多数の納税者を精神的に追い詰めた行為。これは、
- 適正手続違反(憲法31条)
- 無罪推定原則(憲法31条、刑事訴訟法336条の趣旨)違反
- 人格権侵害(憲法13条)
- 国家賠償法1条1項の違法評価
これらは、いずれも個人の問題ではなく、組織として行われた違法評価の対象です。
ここから法理論の核心です。
当局側に違法性の嫌疑が発生している以上、当局は、納税者と完全に同じ法的地位に立たされています。
「嫌疑をかけられた側」という、共通の地位です。
そして、嫌疑をかけられた側がどう扱われるかについて、当局は自ら、運用上の答えを示してきました。すなわち——
「嫌疑をかけられた者は、組織の連続性によって、過去の事項についての説明責任を負い続ける」
これが、当局が納税者に対して適用してきた論理です。
- 会社の代表が交代しても、会社としての連続性がある以上、過去の納税についての説明責任は現経営陣にある。
- 事業承継があっても、承継先が承継した事業についての過去の事項について説明責任を負う。
- M&Aがあっても、M&A後の会社が、被買収側の過去の事項についての説明責任を承継する。
——当局は、この論理を例外なく納税者に適用してきました。
であれば、まったく同じ論理が、当局自身にも適用されなければなりません。
これは単なる比喩ではなく、法理論上の必然です。理由は以下のとおりです。
理由1:法の下の平等(憲法14条)
同一の法理論が、嫌疑をかける側にも、かけられる側にも、対称的に適用されなければなりません。当局が納税者に対して用いた「組織連続性による責任承継」の論理を、当局自身が自分には適用しないのであれば、それは「法を執行する者が、法の適用から自分だけを除外する」という、法治国家の根幹を揺るがす運用です。憲法14条の法の下の平等は、行政機関の運用そのものにも及びます。
理由2:禁反言の原則(信義則・民法1条2項類推)
当局は、納税者に対して「組織連続性により異動・承継後も責任を負う」という立場を表明し、それに基づいて課税・調査を行ってきました。にもかかわらず、自分に対して同じ論理が向けられた瞬間に「異動したので分かりません」と言うのであれば、それは自らが採用した法理論を、都合の悪いときだけ放棄するものであって、信義則上、許されません。これは民法だけの原則ではなく、行政法上も確立された禁反言(estoppel)の法理です。
理由3:行政組織の責任は属人的でなく組織帰属である(国家行政組織法・国家賠償法1条)
そもそも、行政機関の権限行使と責任は、属人的ではありません。国家賠償法1条1項は、「公務員が、その職務を行うについて」生じた損害について、国又は公共団体が責任を負うと規定しています。担当者個人ではなく、組織が責任主体です。担当者が異動したからといって、組織の責任が消えるという解釈は、法文上ありえません。
理由4:嫌疑者の地位は、異動によって変動しない
これは特に強調すべき点です。嫌疑をかけられた者は、その嫌疑の対象となった行為時の地位に基づいて評価されます。後に異動・転職・退職しても、行為時に行った行為についての評価は変わりません。これは刑事責任でも、行政責任でも、民事責任でも、共通の原理です。
当局は、納税者に対しては、まさにこの原理を適用してきました。「過去の事業年度における行為」を理由に、現在の経営陣・現在の法人を追及する——これが税務調査・査察調査の基本構造です。
ならば、当局側の関係者も、行為時に当局の一員として行った行為について、その後の異動・退職にかかわらず、責任評価の対象であり続けます。北村局長が異動しようと、嶋崎統括官が転出しようと、川口氏が部署を変えようと、行為時の地位に基づく責任評価は、永遠に固定されます。
理由5:組織防衛のための論理を、組織自身が放棄することはできない
「異動したから新しい担当者に言ってください」という応答は、組織として行われる以上、組織防衛の論理として機能します。しかしこの論理は、組織内部で誰が担当するかという内部問題であって、外部に対しては効力を持ちません。組織は外部に対しては一個の主体として責任を負うのであり、内部の人事異動を理由に、外部に対する責任が変動することはありえません。
したがって、結論はこうなります。
違法性の嫌疑が当局側にも発生している現在、当局は、自らが納税者に適用してきた「組織連続性による責任承継」の論理から、構造的に逃れることができません。
逃れようとすれば、それは法の下の平等違反、禁反言違反、国家賠償法上の組織責任の否認、そして自ら採用した法理論の自己否定という、四重の法理論的破綻を意味します。
異動は、人事の出来事に過ぎません。法的責任の所在を変動させる事由ではありません。これは納税者側にも、当局側にも、完全に対称に適用されます。
北村厚局長、嶋崎剛統括官、川口延洋氏、その他関係者全員——皆様の責任は、皆様がどこに異動されても、退職されても、行為時の地位に基づき、組織の連続性とともに、追及され続けます。
これは、皆様ご自身が、納税者に対して用いてこられた論理の、忠実な鏡像にすぎません。
論点5:「マルサ」は本来、全国民が利用できるサービスである
「マルサ」を、当ユニオンはこう読み替えます。
丸ごと還付サービス。
過大徴収、誤課税、違法な処分、不当な調査——本来、すべての納税者が、自らに帰属しないものを丸ごと取り戻す権利を持っています。これは行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法、更正の請求(国税通則法23条)など、現行法が明文で保障している権利です。
ところが、現実には「担当者制」と「異動」を盾にして、納税者の追及が遮られてきました。
この壁を超える鍵になるのが、東京国税局の中村英人氏の発言です。すなわち、「誰でも、25万人でも対面調査を受けられる」——この発言は、対面調査の門戸が制度上開かれていることを、当局自身が明言したものとして極めて重要です。
つまり、担当者制は当局が運用上採用しているものに過ぎず、制度上、納税者の側から対面の場を求める権利は閉ざされていないということです。当ユニオンは、この発言を、納税者全員の権利の根拠として活用します。
論点6:無期限の査察調査は、納税者にとっても無期限の追及権である
日本の現行法令上、査察調査には法定の終期がありません。当局はこれを盾として運用してきました。
しかしこの構造は、納税者側にも完全に対称的に作用します。
- 調査が無期限であれば、納税者の検証・追及も無期限。
- 担当者が異動しても、組織責任の連続性で全員追える。
- 局長が交代しても、当時の指揮命令系統の責任は組織に残り続ける。
- 押収物が「見当たらない」と言われた瞬間に、その保管義務違反は、組織として無期限に説明を求められ続ける。
私たちは、国税局側も、異動ごときでいなくなってほしくない。
押収物を無くしたという発言があった以上、物の連続性、人の連続性を、異動があるたびに新しい局長・統括官・担当者を巻き込みながら、組織全体に拡大して追及していけます。一人が異動すれば、その後任にも同じ責任が承継される。後任が異動すれば、さらにその次にも承継される。
これこそ、国税局幹部が口にしていた「やる気」の正体ではないでしょうか。当局が「やる気」を見せてくださった以上、当ユニオンも、相応の「やる気」で応じます。
当ユニオンの宣言
- 一、北村厚熊本国税局長以下、嶋崎剛統括官、川口延洋氏、その他関係者全員について、異動・退職の有無にかかわらず、当時の行為についての説明責任を、組織責任の連続性の原則に基づき、無期限に追及します。
- 二、押収物の所在、保管状況、滅失の有無について、書面による正式回答を要求します。
- 三、馬見塚税理士を介した情報伝達の経緯について、守秘義務違反・虚偽情報漏洩の観点から、正式な調査と回答を要求します。
- 四、「担当者制」を当局が維持するのであれば、納税者側の「代表交代・事業承継・M&A」も同様に組織責任の連続性で扱われるべきであるという、法の下の平等の原則を、明文で確認します。
- 五、東京国税局・中村英人氏の発言を根拠として、対面調査を希望する全納税者の門戸が制度上開かれていることを、当ユニオンは納税者の権利として広く周知します。
- 六、未来永劫続く査察調査を、当ユニオン全組合員は、心より歓迎し、期待します。
長期戦の主導権は、もはや当局ではなく、納税者の側にあります。
嶋崎剛統括官、川口延洋主査、異動になっても責任は免れられません。「査察調査は信頼関係です」という言葉を体現するべく、永遠に真実を追求しましょう。組合員一同、ご連絡をお待ちしています。












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