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押収物は、本当にそこにあるのか――Chain of Custodyの法的義務と、説明責任不履行が示す構造的疑義

~「原本は返せない」「閲覧もできない」という対応の先にあるのは何か。法律論で押収物管理の実態を徹底検証する~

国税ユニオン|公式声明

本声明は、第一弾「押収物還付請求権の空文化」に続き、押収物管理におけるChain of Custody(証拠の連続性)の法的義務と、本件における説明責任不履行が示す構造的疑義について、当組合の正式な見解を法律論として表明するものです。

目次

第一 Chain of Custodyとは何か――その法的根拠

Chain of Custodyとは、押収物が押収時点から法廷提出時点に至るまで、いつ、誰によって、どのような目的で、どのように扱われたかを、連続的かつ検証可能な形で記録することを意味する、近代刑事手続における普遍的法理です。

その法的根拠は、現行法の各所に内在しています。

  • 第一に、刑事訴訟法121条以下が定める押収物の保管・記録に関する一連の規定は、押収機関が押収物を適切に管理し、その状態を保全すべき義務を、法律として課しています。
  • 第二に、刑事訴訟法222条1項により準用される同法120条は、差押目録の作成・交付義務を定めており、押収物の同一性・特定性を、押収時点から書面によって担保する制度を構築しています。
  • 第三に、刑事訴訟法上の押収物が、後に証拠として用いられる可能性がある以上、その同一性・真正性・改ざんがないことの立証責任は、証拠の提出者である捜査機関の側が負います。これは刑事訴訟法上の証拠法の根本原則であり、Chain of Custodyが切断された証拠は、証拠能力そのものを失います。
  • 第四に、国家賠償法1条1項の趣旨により、押収物の管理に過失があり、紛失・毀損・不正利用等が生じた場合、国家賠償責任が発生します。すなわち、押収物管理は、民事的にも国家責任の対象となる法的義務です。

これらを総合すれば、Chain of Custodyの維持は、現行法上、捜査・調査機関が法的に負う義務として明確に位置付けられているのです。

第二 本件における押収物管理――何が確認されているか

本件において、押収物管理の実態について、社会一般に確認可能な事実は以下のとおりです。

  • 第一に、押収から二年間が経過しているにもかかわらず、当該押収物に関する具体的質問検査が一度も行われていないこと。
  • 第二に、第一弾で詳述したとおり、被押収者が差押目録を持参して引取りに赴いた段階では挙動不審のように怯え、その後二週間にわたり電話も無視し続け、「原本は返却できない」「閲覧もできない」という対応が北村厚国税局長の指示で示されたこと。
  • 第三に、押収中のクレジットカードについて、不正利用が複数回確認された事実が、当組合からの説明書を通じて指摘されているにもかかわらず、押収機関側からの具体的な説明回答が示されていないこと。
  • 第四に、押収物管理に関する説明書要請に対し、「適切に保管していた」という抽象的回答に終始し、具体的な管理記録、出入記録、アクセス権限者、管理責任者の特定等、Chain of Custodyを構成する個別事項についての説明が、ほとんど示されていないこと。

第三 「適切に保管していた」という抽象的回答の法的評価

押収物管理について「適切に保管していた」と回答するだけでは、Chain of Custodyを構成するいかなる個別事項についても説明したことにはなりません。

なぜなら、Chain of Custodyとは、以下の各事項を具体的かつ検証可能な形で記録・開示することによってのみ、維持されるからです。

  • 第一に、押収物の個別特定(差押目録による特定と、現物との同一性確認)。
  • 第二に、押収物の保管場所(どの庁舎の、どの保管庫の、どの棚に保管されているか)。
  • 第三に、押収物へのアクセス権限者(押収物を取り扱う権限を有する職員の氏名・役職・期間)。
  • 第四に、押収物の出入記録(いつ、誰が、何の目的で、どの押収物を、どの場所に持ち出したか)。
  • 第五に、押収物の管理責任者(押収物全体の管理について最終的責任を負う職員の氏名・役職)。
  • 第六に、押収物の現状確認(保管開始時点と現時点との間で、状態に変化がないことの検証可能な記録)。

「適切に保管していた」という回答は、これらのいずれの個別事項についても具体的回答を示していない、抽象的な自己評価に過ぎないのです。これは、説明責任を法的に履行したことにはなりません。

現に、嶋崎剛統括官は、「押収物が見当たらない」と発言しており、この発言が馬見塚メモに詳細に残されている以上、説得的な説明が必要不可欠です。

第四 社会一般に成立し得る論理的疑義

ここで、本件において、社会一般から成立し得る論理的疑義を、法律論として整理いたします。これは、押収機関側を一方的に非難するものではなく、説明責任が果たされない限り、論理的に排除できない可能性の集合として整理するものです。

疑義1:押収物の現存性は、検証可能な形で保証されているか

押収物が「原本は返却できない」「閲覧もできない」という状況下に置かれていることは、被押収者側から押収物の現存性そのものを検証する手段を奪っています。社会一般には、押収物が現に存在することを、押収機関の自己申告以外の方法で確認する手段がありません。

押収物の現存性が客観的に検証されない以上、「紛失している可能性は完全には排除できない」という疑義が、論理的に成立し得る状況に置かれているのです。これは、被押収者側の悪意ある推測ではなく、説明責任が果たされない構造そのものから論理必然に生じる疑義です。

疑義2:押収物の同一性は、保管されているか

仮に押収物が現存しているとしても、それが差押目録に記載された物と同一の物であることは、検証可能な形で示されているでしょうか。Chain of Custodyの個別記録が開示されない以上、「押収時点の物が、現時点でも同一性を保って保管されているか」という疑義もまた、論理的に成立し得る状況に置かれています。

疑義3:押収物への不正アクセスは、構造的に予防されているか

押収中のクレジットカードについて不正利用が確認された事実は、押収物への不正アクセスの可能性を、抽象的可能性から具体的可能性へと格上げしています。にもかかわらず、アクセス権限者の特定、出入記録の開示、管理責任者の氏名等が明らかにされない以上、「他の押収物についても、同様の不正アクセスが行われている可能性は完全には排除できない」という疑義が、論理的に成立し得る状況に置かれているのです。

疑義4:押収物関連書類は、紛失していないか

質問検査が長期にわたり一度も行われない押収物について、引取りに赴いた段階で「原本は返却できない」「閲覧もできない」と対応が変質した経緯は、押収物本体のみならず、関連書類(差押調書、保管記録、出入記録等)についても、その整備・保全状況に疑義を生じさせるものです。

説明責任が果たされない限り、「どの書類までが現存しているのか」「どの記録までが整備されているのか」という基本的事実すら、社会一般には確認できない構造に置かれています。

これらの疑義は、いずれも説明責任が果たされれば、即座に解消されるものです。それゆえ、これらの疑義が解消されない事実そのものが、押収物管理の実態についての構造的問題を示唆するのです。

第五 なぜ質問検査が行われないのか――構造的説明仮説

ここで、本件における極めて重要な構造的論点を、法律論として整理いたします。

押収から相当期間が経過してもなお、当該押収物に関する具体的質問検査が一度も行われない事実は、冒頭で確認したとおりです。

通常、押収は、押収物を事実認定資料として活用することを目的として行われます。それゆえ、押収後「速やかに」当該押収物に基づく質問検査が行われるのが、捜査・調査の鉄則です。

それにもかかわらず、本件では、押収から相当期間が経過しても質問検査が行われていません。この事実から、社会一般には、論理的に以下の仮説が成立し得る状況にあります。

国税局の日常的な不作為によって、口裏合わせをされたら、どうするのでしょうか。

仮説1:押収物が事実認定資料として活用できる状態にない

押収物が紛失している、所在が不明確である、または管理状況が悪化しているため、事実認定資料として活用できる状態にない、という仮説です。この場合、質問検査を行いたくとも、押収物の現状確認自体が困難であり、結果として質問検査が事実上不可能となっている可能性があります。

仮説2:押収物が事実認定資料として活用する必要性のない物であった

押収時点では必要と判断されたものの、その後の捜査・調査の進展により、当該押収物が事実認定資料として不要であることが判明した、という仮説です。この場合、刑事訴訟法123条1項により速やかに還付されるべきですが、現に還付されていない事実は、本仮説と整合しません。

仮説3:押収物を、捜査の必要性以外の目的で保持し続けている

押収物を、事実認定資料としての目的を超えて、被押収者への心理的圧迫、説明応答の引出手段、対面調査の誘引手段等として保持し続けている、という仮説です。これは押収制度の趣旨を逸脱する運用であり、刑事訴訟法上の押収目的を踏み越えるものです。

仮説4:組織内の意思決定が停滞しており、判断そのものが行われていない

押収物の取扱いについて、組織内の意思決定プロセスが機能不全に陥っており、還付・継続留置のいずれの判断も行われないまま放置されている、という仮説です。

いずれの仮説が事実であるかは、押収機関側の説明責任が果たされない限り、社会一般には判別できません。だからこそ、説明責任の履行が、これらの構造的疑義を解消する唯一の方法なのです。

第六 立法による解決――Chain of Custody開示請求権の制度化

以上の論理的整理を踏まえ、当組合は、本件のような構造的疑義を、運用ではなく立法によって構造的に解消することを提案いたします。

具体的には、

  • 第一に、被押収者に対するChain of Custody開示請求権の制度化。押収から一定期間経過後、被押収者は、押収物の現存性・同一性・保管場所・アクセス記録等の開示を、押収機関に対して請求できる制度。
  • 第二に、押収物の定期現物確認制度。押収から一定期間ごとに、押収物の現存性・状態を、独立した第三者(裁判所書記官等)が確認する制度。
  • 第三に、押収物管理に関する説明責任不履行に対する制裁規定。Chain of Custodyに関する具体的開示請求に対し、抽象的回答に終始した場合、押収物の留置継続を認めない仕組みの制度化。
  • 第四に、押収物の所在不明・紛失が判明した場合の即時報告義務。紛失隠蔽を防止するための、組織内告発保護と外部監督機関への報告制度。

これらの立法措置によって、押収物管理は、押収機関の自己申告に依存する現行構造から、検証可能性を法的に担保された制度へと進化することができます。

第七 組合からの正式要請

以上を踏まえ、当組合は、熊本国税局調査査察部査察第3部門の関係各位、ならびに北村厚国税局長宛に、以下の事項について書面による正式回答を要請いたします。

  • 第一に、本件押収物の各品目(名刺ケース、パソコン、パスポート、クレジットカード等)について、それぞれの現在の保管場所(庁舎名・保管庫名・棚番号レベル)の特定。
  • 第二に、各押収物へのアクセス権限者の氏名・役職・アクセス可能期間の特定。
  • 第三に、各押収物の出入記録(押収以降、いつ、誰が、何の目的で、どの押収物を、どの場所に持ち出したか)の開示。
  • 第四に、各押収物の管理責任者の氏名・役職の特定。
  • 第五に、押収中のクレジットカードについて確認された不正利用事案の事実関係(不正利用の日時、金額、利用先、当該カードへの押収中のアクセス記録との照合結果)の具体的説明。
  • 第六に、押収物に関する差押調書、保管記録、出入記録等の関連書類の整備・保全状況。
  • 第七に、押収物に関する質問検査が長期にわたり一度も行われていない具体的理由。

結語――説明責任の履行こそが、押収制度の信頼を守る

押収という強制処分は、近代刑事手続法における極めて強力な権限です。だからこそ、その運用に対する説明責任は、押収機関の側に重く課されているのです。

「適切に保管していた」という抽象的回答ではなく、Chain of Custodyを構成する個別事項についての具体的かつ検証可能な説明こそが、押収制度への社会的信頼を守る唯一の方法です。

第一弾で論じた還付請求権の空文化、本第二弾で論じたChain of Custodyの説明責任不履行――これらは、いずれも単一案件の運用問題ではなく、現行法上の押収制度を、立法・運用の双方から再検証する必要性を示すものです。

世界初の組合費無料ユニオンとして、当組合は、押収制度の運用適正化を、法律論に基づく徹底的な検証と、立法による構造的解決の双方を通じて、引き続き推進してまいります。

グローバルユニオン(国税ユニオン)
組合員一同
Web:https://globalunion-grp.org/mikata/u/kokuzeiunion/

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首都圏青年ユニオン連合会が運営する労働者のミカタです。労働者のミカタは、全てのブラック企業やブラック団体から、健全に働く労働者を守ります!

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