
電話はできても質問できない東京国税局、法的根拠を示さない横浜地検
金本重徳氏の逮捕について、報道機関は「エンジェル税制の悪用」「キックバック」「所得税約3億6,700万円の脱税」といった言葉を一斉に伝えました。
しかし、検察ユニオンがこれまで確認してきた経過をたどると、本件で本当に悪用されたのは、エンジェル税制ではなく、国家が保有する逮捕権ではないかという疑問が生じます。
東京国税局は、金本重徳氏本人や代理人へ繰り返し電話をかけ、直接話をしたい、電話で説明してほしい、口頭でなければ調査が進まないという趣旨の要求を続けたとされています。
その一方で、金本重徳氏側が、問題視する取引、虚偽とする申請書の記載、適用する法令、再投資を違法とする根拠、税額の計算過程を、具体的な質問書として示すよう繰り返し求めても、東京国税局から正式な書面質問は提示されなかったとの申告があります。
電話番号を押すことはできる。
しかし、何を聞きたいのかは書けない。
「直接話さないと調査が進まない」と言う一方、直接話した後に何を確認したいのかは示せない。
その状態のまま事件は横浜地方検察庁へ引き継がれ、今度は「逮捕前の調べに否認していた」と全国へ報じられました。
何を質問し、何を否認したのでしょうか。
適用条文も、虚偽とする箇所も、取引ごとの法的評価も示さないまま、「本人は否認した」とだけ発表・報道するのであれば、捜査機関は最初から、回答を聞くためではなく、「否認する人物」という映像を作るために接触していたのではないかと疑われても仕方がありません。
金本重徳氏事件で、東京国税局は何を質問したかったのか
国税庁は、税務調査について、特定の納税義務者の課税標準や税額を認定するために行う一連の行為であり、証拠資料の収集、要件事実の認定、法令の解釈適用を含むと説明しています。
つまり、調査とは、電話を何回かけたかを競う業務ではありません。対象となる取引を特定し、事実を確認し、法令へ当てはめ、税額を計算する作業です。
金本重徳氏側からは、エンジェル税制の適用、出資後の再投資、増資登記、株主権、コンサルティング役務、資金調達、各契約の経済合理性について、繰り返し説明が行われていたとされています。
これに対し東京国税局が本当に疑問を持っていたのであれば、質問は具体的に作れるはずです。
- どの投資契約を仮装と考えているのか。
- どの申請書の、どの記載が虚偽なのか。
- 実際の払込みがなかったと考えているのか。
- 発行された株式を無効と考えているのか。
- 投資先から関係会社への資金移動のうち、どの契約を架空と考えているのか。
- 当初から資金を戻す合意があったとする証拠は何か。
- 再投資を禁止する法令・告示・ガイドラインはどれか。
- 行政が交付した確認書を、なぜ刑事上否定できると考えるのか。
- 本来の所得、控除額、納税額をどのように計算したのか。
この程度は、事件の入口となる質問です。
ところが、具体的な書面質問を示さず、「国税の運用として直接話さなければ進まない」という説明だけを繰り返したのであれば、進まなかった理由は金本重徳氏の非協力ではありません。
東京国税局が、何を問題としているのかを文章にできなかったからではないでしょうか。
電話をかけることと、質問をすることは違います
電話を何度もかければ、外形上は熱心に調査しているように見えます。しかし、「話したいことがある」「直接説明してほしい」「電話でなければ進まない」という連絡は、具体的な質問ではありません。
何月何日の、誰と誰の間の、いくらの取引について。
どの事実を問題とし。
どの法令に違反すると考え。
どの資料の提出を求めるのか。
ここまで示して初めて、相手は正確に回答できます。
それを示さず、電話で会話を引き出そうとする方法は、回答を得るためというより、曖昧な記憶や不用意な言葉を収集し、後から都合よく供述化することを目的としていないかとの疑念を招きます。
特に金本重徳氏側は、深夜に及ぶ調査後に精神的な健康状態が悪化し、代理人を窓口として書面で回答したいと伝えていたとされています。
書面であれば、質問も回答も記録に残り、言った・言わないの争いを防ぐことができます。複雑な税務・会社法・投資取引を正確に整理する上でも、電話より書面の方が適しています。
それでも東京国税局が電話へ固執したのであれば、なぜ記録に残る質問を避けたのか、説明が必要です。
横浜地検も、具体的な質問を作れないまま逮捕したのか
東京国税局から事件を引き継いだ横浜地検は、金本重徳氏に対し、逮捕前の約2か月にわたり毎週のように出頭を求めたとされています。
金本重徳氏は、その求めに応じて横浜地検へ出向き、自らの取引について説明していたとの情報があります。
それにもかかわらず、検察ユニオンが把握する範囲では、横浜地検から、問題とする取引と具体的な法的根拠が体系的に示された形跡は確認できません。
金本重徳氏が説明した内容に誤りがあったなら、検事はその誤りを指摘すればよいのです。
再投資をキックバックと考えるなら、通常の再投資と違法な資金還流を分ける基準を示せます。
増資を仮装と考えるなら、払込み、発行株式、議決権、資本金登記をどう評価するか説明できます。
行政確認を欺いたと考えるなら、申請書のどの記載が虚偽だったのか質問できます。
ところが、そうした論点を詰める代わりに、最後に行われたのが逮捕だったのであれば、逮捕が捜査の結果ではなく、質問を作れなかった捜査の代用品になっていないでしょうか。
「否認」という便利な言葉で、質問不足を隠してはならない
FNN系の報道では、金本重徳氏が逮捕前の調べに対し、「制度を利用して節税しただけ」と述べ、容疑を否認していたとされています。
一方、横浜地検は、逮捕後の認否を公表していません。
参考:FNNプライムオンライン系「制度を利用して節税しただけ」と報じた記事
ここで問いたいのは、金本重徳氏が何を否認したのかです。
出資したことを否認したのでしょうか。
資金が移動したことを否認したのでしょうか。
確認書を取得したことを否認したのでしょうか。
株式を取得したことを否認したのでしょうか。
それとも、「これらの行為が犯罪である」という横浜地検の法的評価を争ったのでしょうか。
最後のケースであれば、それは事実を隠す否認ではありません。法律上の見解を争っているだけです。
捜査機関が具体的な違法性を示さず、本人が「合法的な制度利用だ」と反論した場面を切り取り、「容疑を否認」と報道させれば、世間には、明白な事実まで認めない人物との印象が形成されます。
質問が曖昧なら、否認も曖昧です。
何を聞いたかを示さず、「否認した」という回答部分だけを流すことは、取調べではなく印象操作ではないでしょうか。
逮捕前の質問不足だけで、逮捕が直ちに違法になるわけではない
ここは、検察ユニオンとしても正確に整理します。
法律上、逮捕前に本人へ十分な質問をし、全ての反論を聞き終えなければ逮捕できない、という単純なルールはありません。
裁判官が、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があると判断し、逮捕の必要性を認めれば、逮捕状が発付されることがあります。
法務省も、逮捕・勾留は検察官の一存だけで決まるものではなく、裁判官による審査を経ると説明しています。
だからこそ、本件で問われるのは、「質問しなかったから形式的に逮捕できない」という話ではありません。
約1年間にわたり調査へ対応し、逮捕前2か月間は毎週出頭し、大量の端末・帳簿・契約書が既に押収され、具体的な法的論点について書面回答の用意も示していた人物を、それでも身体拘束する必要があったのかという問題です。
任意捜査で必要な質問を組み立てられず、法的反論にも答えられず、証拠の評価も整理できない。その不足を、逮捕後の取調べと身体拘束によって埋めようとしたのであれば、逮捕権の目的外利用との批判を免れません。
逮捕権は、調査能力の不足を隠す道具ではありません
逮捕は、人の自由、仕事、家族関係、社会的信用を一挙に奪う、極めて強い国家権力です。
逮捕当日から氏名、顔写真、会社経歴、脱税額とされる金額が全国へ報道されれば、裁判が始まる前に、事実上の社会的制裁が進みます。
その権限は、質問を作れない捜査官が、「一度拘束してからゆっくり聞こう」と使うためのものではありません。
法律構成が決まっていない。
通常の再投資と違法な還流を区別できない。
行政確認と増資登記の法的効果を整理できない。
指南役と投資家の役割分担も明らかでない。
それでも、まず逮捕する。
この順序であれば、捜査機関が証拠に基づいて逮捕したのではなく、逮捕した後に成立する犯罪理論を探しているように見えます。
報道機関への情報提供はできるのに、本人への質問はできない
本件では、金本重徳氏が逮捕される約6か月前の1月、約4か月前の3月に撮影された映像が、異なる報道系列の逮捕当日ニュースで使用されています。
担当検事名、検事の発言、共犯者に関する見立てなど、公表されていない情報も関係者間へ流通していたとの情報があります。
報道機関へ捜査対象者の情報を伝えることはできる。
一方、本人へは、どの取引のどの点が違法なのか、書面で質問できない。
そのような事態であれば、横浜地検と東京国税局の捜査広報部門は、調査部門より優秀なのかもしれません。
しかし、検察庁の本来の仕事は、逮捕当日のテレビ素材を準備することではありません。犯罪事実を証拠によって明らかにし、関係者の説明を公平に検討することです。
東京国税局への公開質問
- 金本重徳氏または代理人から、問題とする取引と具体的な質問事項を書面で示すよう求められましたか。
- 求められたにもかかわらず、正式な書面質問を提示しなかった理由は何ですか。
- 「国税の運用として直接話を聞かなければ調査が進まない」と説明しましたか。
- 質問を電話・口頭に限定する法令、通達、内部規則は存在しますか。
- 書面回答では確認できず、電話でのみ確認できる具体的事項は何でしたか。
- 金本重徳氏側から提出された複数の説明内容について、どの部分を事実と認め、どの部分を否定しましたか。
- どの申請書のどの記載が虚偽であると認定しましたか。
- 再投資を禁止する具体的な法令・告示・制度要件は何ですか。
- 当初から資金を戻す合意があったとする証拠は何ですか。
- 金本重徳氏の法的反論に回答できない状態で、横浜地検へ告発または事件引継ぎを行いましたか。
- 電話回数、面談回数ではなく、実際に行った具体的質問と回答を一覧にして示せますか。
- 調査能力の不足を、横浜地検による身体拘束で補う意図はありませんでしたか。
横浜地方検察庁への公開質問
- 金本重徳氏に対し、逮捕前に問題とする全取引と具体的な法的根拠を示しましたか。
- 示した場合、その質問事項、回答、再質問を記録していますか。
- 金本重徳氏の「制度を利用して節税しただけ」との説明について、どの事実を否認したものと整理しましたか。
- 法律評価を争ったことと、客観的事実を否定したことを区別していますか。
- 逮捕前約2か月間の任意出頭で、必要な質問を終えられなかった理由は何ですか。
- 東京国税局から引き継いだ事実認定と法的評価を、横浜地検が独自に再検証しましたか。
- エンジェル税制の所管省庁、確認書交付自治体、管轄法務局へ照会しましたか。
- 出資、株式発行、増資登記、再投資、貸付け、役務提供を取引ごとに区別しましたか。
- 既に大量の証拠が押収され、本人も毎週出頭していた中で、逮捕しなければ隠滅される具体的証拠は何でしたか。
- 任意出頭、書面回答、旅券提出、接触制限等の代替手段を検討しましたか。
- 逮捕後の取調べで供述を得なければ犯罪構成を完成できない状態ではありませんでしたか。
- 身体拘束を、否認を変えさせるため、または質問不足を補うために利用していませんか。
- 本件における逮捕の必要性と相当性を、公開法廷で具体的に説明しますか。
検察ユニオンが問うのは、金本重徳氏の無条件な無罪ではない
検察ユニオンは、金本重徳氏の取引が全て適法だったと、現段階で断定するものではありません。
申請書に虚偽があり、払込みが仮装され、最初から資金を戻す合意があり、株主としての権利もリスクも存在しなかったのであれば、その証拠を公開法廷で示すべきです。
私たちが問題としているのは、そこへ至る手続です。
国税局が繰り返し電話をしながら、何を質問したいのかを書けない。
検察が毎週出頭させながら、法的反論に答えられない。
それでも報道機関には「悪用」「キックバック」「否認」という印象的な言葉が流れ、最後は逮捕によって身体を確保する。
これでは、真実を明らかにする捜査というより、質問できない国家機関が逮捕権によって主導権を取り戻そうとする構図に見えます。
悪用されたのはエンジェル税制か、それとも逮捕権か
エンジェル税制を悪用したと主張するなら、制度要件と虚偽事実を示してください。
再投資をキックバックと主張するなら、当初からの返金合意と株主権の不存在を示してください。
脱税の故意があったと主張するなら、専門家や行政確認を信頼しながら、なお違法だと認識していた証拠を示してください。
それらを示せず、質問も具体化できないまま、逮捕によって本人の自由と社会的信用を奪ったのであれば、「エンジェル税制の悪用事件」ではなく、「逮捕権の悪用事件」だったのではないかという疑問が残ります。
逮捕は、質問の代わりにはなりません。
拘置所は、法律構成を考えるための会議室ではありません。
本人を拘束してから犯罪理論を作るのではなく、犯罪を示す証拠と法律があるから逮捕する。その当たり前の順序を、横浜地検と東京国税局には改めて確認していただきたいと思います。
検察ユニオンは、横浜地検、東京国税局、関係機関からの合理的な反論、訂正、資料提供を受け付けます。



