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【検証】子どもの机、生活家具、冷房まで差押え——全動産返還に至った2年間の動産差押えと国税徴収法上の問題

ある法人の代表者が受けた動産差押えは、約2年を経て、最終的に全動産の差押解除・返還に至ったとされる。子どもの学習机、ダイニングテーブル、こたつ、冷房設備、通信手段、さらには医療上必要とされる動産までが差押えの対象になったという。もしこの証言が事実であれば、国税徴収法が「差し押さえることができない」と定める財産や、最低限度の生活・健康・事業継続に関わる財産にまで処分が及んでいた可能性がある。本記事では、当事者の証言をもとに、失われた2年間と、そこに横たわる法的問題を、条文・通達・裁判例を中心に整理する。

何が起きたのか

発端は税務調査だった。複数の項目を否認されて追徴課税を受け、納税が遅れた。それに対して行われた動産差押えについて、本人は、通常の徴収手続の範囲を大きく逸脱するものだったと訴えている。

本人によれば、口座や現金預金がすべて差し押さえられ、残高は0になった。事業は停止に追い込まれ、さらに、連絡や業務に必要なiPhoneやPCといった通信手段まで差押えの対象になったという。本人は、一切の業務ができず、外部との連絡もできず、手元に1円もない状態に置かれたと訴えている。

さらに、差押えの対象は、子どもの学習机、ダイニングテーブル、こたつにまで及び、一家は床で食事を取らざるを得なくなったという。冷房設備まで差押えの対象とされた結果、本人と子どもは熱中症になったと訴えている。また、本人は持病を抱えており、医療上必要とされる動産まで差し押さえられたことによって、持病が悪化したとも主張している。

本人によれば、iPhone、PC、エアコンについては、国税不服審判所への審査請求後、差押えから約2か月後に返還されたという。もっとも、その返還理由について、iPhoneとPCは「データの完全削除ができなかったため」、エアコンは「配慮したため」と説明されたとされる。本人は、これらの説明は国税徴収法上の差押解除要件との関係で極めて不自然であり、そもそも差押えの適法性や必要性に疑問を生じさせるものだと主張している。

また、返還されたエアコンのうち1台は破損しており、当該国税局の負担で修理されたという。しかし、取り外しと取り付けが複数回行われた影響もあり、現在も不調が残っているとされる。さらに、室外機についても、元の場所に戻されず、生活動線を塞ぐ位置に置かれたままであり、本人が移動を求めたにもかかわらず、当局側は「現状復帰を尽くした結果である」という趣旨の説明をして、移動を拒否し続けているという。

また、担当職員からは「死ぬか破産かを選べ」と繰り返し迫られ、差押え中はトイレに行く際にも後をつけられた——本人はそう語る。さらに、差押え動産の選定過程において、職員が本人の強い拒否にもかかわらず、私的な衣類に触れたとも訴えている。本人は、その場で「そこには下着があるからやめてほしい」と伝え、女性職員も見ていたにもかかわらず、別の職員が衣類を広げて触れたと主張している。しかし、この出来事は調査報告書には記載されていないという。

さらに、差押えの状況を記録した調査報告書についても、本人は重大な疑義を示している。本人によれば、調査報告書は2通作成されており、そのうち1通には、財産の帰属確認、すなわち、その財産が法人のものか、代表者個人のものかを確認したかのような記載が多数あるという。しかし本人は、実際には十分な帰属確認は行われておらず、その記載はすべて事実と異なると主張している。また、その報告書は、審査請求や裁決に影響しないように後日作成されたものではないかと疑っており、作成者の筆跡と日付記入者の筆跡が異なるとも指摘している。

本人は、この調査報告書の記載について、当該国税局に個人情報の訂正請求を行ったが、却下されたという。そのため、現在は国税庁に審査請求を行っており、結果を待っている状態であるとされる。

その後、不服申立てや、関係者による国税庁への確認を経て、国税庁から国税局に対して何らかの指導が行われたとされ、約2年間差し押さえられていた全動産について、差押解除・返還が決まったという。もっとも、現時点で確認できる限り、当局が明示的に「違法な差押えであった」と認めたとまではいえない。したがって本件では、差押解除・返還という事実を前提に、当初の処分の適法性、相当性、財産選択の合理性が問われることになる。

本人は、この差押えが破産に至る重大な要因になったと主張しており、現在も破産手続き中であるという。また、本人は、子どもの存在があったからこそ何とか耐えてこられたが、そうでなければ生きること自体を諦めていたかもしれないほど追い詰められていたと語っている。

法的にどこが問題なのか

本人の証言が事実であるとすれば、この差押えには複数の重大な法的論点が横たわる。

  1. 差押禁止財産への抵触——国税徴収法75条1項は、滞納者およびその者と生計を一にする親族の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳、建具などを差押禁止財産と定めている。また、同条は、主として自己の学習に必要な書籍や器具についても差押禁止財産としている。国税庁の基本通達も、これらは絶対的差押禁止財産であり、差押禁止財産であることが外観上明白なものを差し押さえた場合、その差押えは無効であるとの考え方を示している。子どもの学習机は、学習に必要な器具として差押禁止財産に当たり得る。ダイニングテーブルやこたつについても、生活に欠くことができない家具として差押禁止財産に該当する可能性がある。冷房設備については条文上明示されているわけではないが、酷暑、子どもの存在、健康被害、代替手段の有無などの具体的事情によっては、最低限度の生活を維持するために必要な財産として、差押えの相当性が強く問われる。
  2. 通信手段・業務手段の差押え——本人によれば、iPhoneやPCといった通信手段・業務手段もすべて差し押さえられたという。これにより、本人は業務を行うことも、外部と連絡を取ることも著しく困難になったと訴えている。もちろん、通信機器やPCが常に差押禁止財産となるわけではない。しかし、事業者にとってそれらが業務継続に不可欠であり、かつ他の連絡手段や業務手段がない場合には、差押えの必要性、相当性、財産選択の合理性が厳しく問われる。また、後にiPhoneとPCが「データの完全削除ができなかった」という理由で返還されたのであれば、そもそも換価可能性や処分目的との関係で、当初の差押えがどこまで実効性を持つものだったのかも検証されるべきである。
  3. 医療上必要な動産の差押え——本人は、持病があり、医療上必要とされる動産まで差押えの対象となったことによって、持病が悪化したと主張している。国税庁側は、病気などの現状を聞き取ったうえで差押えを行うべきであるという趣旨の説明をしたとされるが、本人によれば、そのような聞き取りは一切なかったという。生命・身体・健康に関わる動産については、形式的な所有関係や換価可能性だけでなく、本人の健康状態、生活上の必要性、代替手段の有無を慎重に確認すべきである。もしその確認を欠いたまま差押えが行われたのであれば、差押えの相当性だけでなく、国家賠償法上の注意義務違反の有無も問題となり得る。
  4. 超過差押え・無益な差押えの疑い——国税徴収法48条1項は、国税を徴収するために必要な財産以外の財産を差し押さえることはできないと定めている。同条2項は、換価しても滞納処分費や優先債権を上回る見込みがない財産の差押え、いわゆる無益な差押えを禁じている。最終的に全動産が返還されたという事情は、それだけで直ちに当初の差押えが違法だったことを意味するものではない。しかし、差押時点において、これらの動産が徴収目的に照らして本当に必要であったのか、換価価値があったのか、他により負担の少ない財産選択が可能ではなかったのかという点に重大な疑問を生じさせる。引越し業者のトラック、作業員、電気業者まで動員して行われたとされる処分については、処分費用との関係でも、無益性や相当性が検証されるべきである。
  5. 法人財産と代表者個人財産の帰属確認——滞納処分は、原則として滞納者本人に帰属する財産にしか及ばない。法人の滞納であれば、差押えの対象となるのは原則として法人財産であり、代表者個人の生活財産が当然に差押対象になるわけではない。代表者個人に第二次納税義務などの別個の法的根拠がある場合は別として、法人財産と個人財産の帰属確認は処分の出発点である。本人は、差押え直後から一貫して帰属確認の不備を指摘してきたという。当局側が後に「法人と個人の帰属の確認に不備があったかもしれない」という趣旨の説明をしたのであれば、差押えの前提となる財産帰属の調査が十分であったのかが強く問われる。
  6. 調査報告書の記載内容と虚偽公文書の論点——刑法156条は、公務員が、その職務に関し、行使の目的で虚偽の公文書を作成した場合を処罰対象としている。また、刑法158条は、虚偽作成された公文書等を行使した場合を処罰対象としている。もっとも、報告書に事実と異なる記載があるだけで、直ちにこれらの罪が成立するわけではない。問題となるためには、その文書が公文書に当たること、記載内容が客観的に虚偽であること、作成者が虚偽であると認識していたこと、行使目的があったこと、実際に処分維持や不服審査の場面で使われたことなどが検討される必要がある。本人の主張どおり、帰属確認をしていないにもかかわらず、確認したかのような記載がなされ、その記録を根拠に処分の適法性が主張されていたのであれば、行政手続上も刑事法上も看過できない論点となり得る。また、調査報告書が後日作成された疑い、作成者と日付記入者の筆跡が異なる疑い、個人情報訂正請求が却下され、国税庁への審査請求に至っているという経緯も、文書の信用性を検証するうえで重要である。
  7. 差押財産の破損・原状回復の問題——本人によれば、返還されたエアコンの一部は破損しており、当該国税局の負担で修理されたという。また、取り外し・取り付けが複数回行われた結果、現在も不調が残っているとされる。さらに、室外機が元の位置に戻されず、生活動線を塞ぐ位置に置かれたままで、移動も拒否されているという。差押財産の保管・返還にあたっては、財産を不必要に損壊させないこと、返還時に可能な限り原状を回復することが求められる。仮に差押財産の破損や不適切な返還状態が生じているのであれば、国家賠償法上の損害や、行政上の管理責任が問題となり得る。
  8. 国家賠償法1条の観点——国家賠償法1条1項は、公権力の行使にあたる公務員が、職務を行うについて、故意または過失によって違法に他人に損害を与えたときは、国または公共団体が賠償責任を負うと定めている。本件でも、差押えが違法であり、かつ職員に職務上通常尽くすべき注意義務違反があったといえる場合には、国家賠償請求が検討対象となる。ただし、行政処分が結果として違法または不当であったことと、国家賠償法上の故意・過失が認められることは同一ではない。最高裁判例上も、国家賠償責任を問うためには、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさず漫然と処分をしたと評価できる事情が必要とされる。したがって、差押解除・返還があったことは重要な事情である一方、それだけで直ちに国賠が認められるわけではなく、証拠の積み重ねが不可欠である。
  9. 職員の言動と人格権侵害——「死ぬか破産かを選べ」という発言や、トイレにまで同行したという行動が事実であれば、それは徴収という行政目的を超えた威圧的言動であり、人格権侵害や精神的損害の問題として、税法とは別の次元でも検討されるべきである。また、差押えの現場で、本人が拒否したにもかかわらず私的な衣類に触れたという証言が事実であれば、人格的尊厳やプライバシーを侵害する行為として、極めて重大である。徴収手続は、国税の確保という公益目的に基づくものであるとしても、その遂行にあたって、滞納者や家族の人格、生活、健康を不必要に侵害してよいわけではない。

裁判例・先例は何を語るか

「役所のやることに違法などあるのか」と思う読者もいるかもしれない。しかし、過去の裁判例や国税庁自身の通達は、むしろ、徴収手続にも明確な限界があることを示している。

超過差押えで処分が取り消された例は現実に存在する。奈良地裁平成31年2月21日判決は、固定資産税等の滞納処分として、滞納税額の約10倍に当たる価値を持つ不動産全体を差し押さえた処分について、徴収職員の裁量権の逸脱・濫用に当たり違法であるとして、差押処分の一部取消しを認めた事案である。地方税の事案ではあるが、地方税法を通じて国税徴収法48条と同様の基準が問題となった。

この判決は、不動産差押えの事案であり、本件のような生活動産の差押えとは対象財産が異なる。そのため、直接そのまま当てはまる先例とはいえない。しかし、徴収職員が差し押さえる財産を選択する際には、滞納額、財産価値、分割可能性、滞納者の生活への支障などを考慮すべきであり、必要以上の財産を差し押さえれば、裁量権の逸脱・濫用として違法となり得ることを示している点で重要である。

もっとも、この奈良地裁判決でも、差押処分の取消しは認められた一方で、国家賠償請求については否定されている。この点は重要である。つまり、差押えが違法と判断されることと、国や自治体に賠償責任が認められることは、法的には別の問題なのである。

差押禁止財産については、国税庁の基本通達がさらに明確な基準を示している。国税徴収法75条の差押禁止財産について、差押禁止財産であることが外観上明白なものを差し押さえた場合、その差押えは無効であるとされている。したがって、本件で問題となった子どもの学習机、生活に欠くことができない家具、台所用具などがこれに当たるのであれば、その部分の差押えは単なる不当処分にとどまらず、そもそも効力を持たない差押えであった可能性がある。

また、国税庁の基本通達には、徴収職員が職務を行うについて、故意または過失により違法に差押財産を亡失し、または毀損し、滞納者等に損害を与えたときは、国家賠償法1条1項に基づき、国が賠償責任を負う旨の考え方も示されている。これは、違法な滞納処分について国の責任が一切問題にならないという立場ではないことを意味する。

ただし、現実の壁は低くない。税務当局の研修機関である税務大学校の研究論叢でも、違法な差押えをめぐって国家賠償によって権利利益を回復することは容易ではないと分析されている。形式的に手続が整えられている場合、職員個人の故意・過失や注意義務違反を立証することが難しくなるためである。だからこそ、本件のような事案では、差押調書、写真、動画、録音、報告書、不服申立書、個人情報訂正請求に関する書面、国税庁への審査請求資料、当局とのやり取り、返還に至った経緯など、証拠をできる限り完全に保全することが決定的に重要になる。

これは一人だけの問題ではない

この当事者は、孤立した例外ではない可能性がある。国税局の調査や滞納処分をめぐって、理不尽な扱いを受けたと訴える人は各地に存在する。

本人は、この差押えの内容について、複数の報道機関に情報提供を行い、記事化を求めてきたという。しかし、現時点では報道には至っていない。また、国会議員に対して、国会で取り上げてほしい旨も伝えたが、実現は容易ではないとの反応だったという。本人は、当該国税局の責任者を国会に呼び、厳しく追及してほしいと訴えている。

国税局の調査や滞納処分をめぐる当事者の声を集め、氏名、地域、業種などを伏せたうえで証言を可視化し、一定の結集をもって共同訴訟の提起も視野に入れる——そうした取り組みが動き始めているという。本意でない供述を取られたと感じている人、調査の過程に疑問を持ちながら声を上げられずにいる人、滞納処分によって生活や事業を大きく壊されたと感じている人も含め、点として埋もれていた経験を線でつなぐ試みである。

声が一つであれば「特殊な事例」として処理されてしまうかもしれない。しかし、同種の証言や資料が複数集まり、手続の問題、財産選択の問題、帰属確認の問題、職員の言動の問題が共通して浮かび上がれば、それは構造的な問題として検証されるべきものになる。

本人は、職員らが違法行為であるとの認識を持っていないように見えたこと、威圧的な発言や役割分担が極めて手慣れていたように感じられたことから、これは一部の職員による偶発的な逸脱ではなく、当該国税局において繰り返されてきた手法ではないかとの疑念を抱いている。もちろん、その点は今後の調査と検証を要する。しかし、同種事案の有無を確認することは、再発防止のためにも不可欠である。

国家賠償請求訴訟という正面の一手だけでなく、証拠の保全、証言の集約、制度的な問題提起、議会や行政への働きかけ、そして世論による検証を重ねることによって、当局自身に再検討と是正を迫る道筋は存在する。

残る問い

一個人の事業と生活を大きく揺るがし、現金預金をすべて押さえ、通信手段を奪い、子どもの机や生活家具、冷房設備、医療上必要とされる動産まで差押えの対象とし、最終的には全動産の返還に至ったとされる差押えとは、いったい何だったのか。

これだけのことがありながら、本人によれば、当局から明確な謝罪はなく、違法な差押えであったことも、国税庁からの指導の内容も、正式には認められていないという。当局は「帰属の確認に不備があったかもしれない」という趣旨の説明にとどまっているとされる。

最終的な法的評価を下すのは司法である。しかし、少なくとも、適法であると説明されてきた処分が、約2年を経て全動産の差押解除・返還に至ったという経緯は、検証されるべき重要な事実である。とりわけ、国税徴収法75条の差押禁止財産、同法48条の超過差押え・無益な差押え、法人財産と代表者個人財産の帰属確認、通信手段・医療上必要な動産の差押え、差押財産の破損と原状回復、調査報告書の信用性という観点から、本件は慎重に記録されなければならない。

声を上げることは、孤立した怒りではない。次に同じ目に遭う誰かを守るための、最初の一歩である。

本記事は、当事者の証言・主張に基づき、個人を特定できない形に加工して構成したものです。記載した法的評価は、証言が事実である場合に問題となり得る論点を、一般的な法令、通達、裁判例に照らして整理したものです。本記事は、特定個人または特定職員の犯罪事実を断定するものではなく、また、当局が明示的に違法を認めたと断定するものでもありません。地域、年齢、家族構成、病状、業種その他の個人特定につながり得る情報は、必要に応じて抽象化しています。最終的な法的評価は、関係資料、証拠、当事者双方の主張を踏まえ、司法その他の適正な手続において判断されるべきものです。

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首都圏青年ユニオン連合会が運営する労働者のミカタです。労働者のミカタは、全てのブラック企業やブラック団体から、健全に働く労働者を守ります!

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