「私のこと嫌いですか」は内部通報だったのか
検察のパワーハラスメントは、最近になって突然始まったものではないようです。
検察ユニオンが確認したXの投稿では、自らを1993年任官の元検事とする弁護士が、東京地方検察庁へ配属された同期の検事について、東京地検刑事部の副部長から決裁の場で「バッジを外せ」、つまり検事を辞めろという趣旨の罵倒を受けたと記載しています。
投稿者はさらに、当時の新任検事49名のうち、東京へ配属された3名が1年目で辞職したと述べ、検察のパワハラは1990年代から綿々と続いていると指摘しています。
その返信欄には、大学の後輩が決裁を受けに行くたびに罵倒され、バインダーを投げつけられたと話しており、その後に自死したという、さらに深刻な証言も投稿されています。

これらはSNS上の申告であり、個々の出来事や自死との因果関係について、検察ユニオンが独立して確認できているわけではありません。
しかし、2026年になっても、先輩検事から「ポンコツ」と罵倒され、その先輩が描いた事件の見立てに沿う調書を作るよう求められたとの元検事の告発が報道されています。
先輩検事から「ポンコツ」 検察内部のパワハラを訴える手記についてのFNN報道
1990年代の「バッジを外せ」から、2026年の「ポンコツ」まで。
時代は変わっても、上司が部下を侮辱し、上司の見立てに従うことを求め、耐えられない者が組織を去っていく構造は、ほとんど変わっていないのではないでしょうか。
小林検事と山口検事から、正式な通報があったわけではありません
最初に、事実関係を明確にします。
小林検事及び山口検事本人から、検察ユニオンへ正式なパワハラ相談や内部通報があった事実は、現時点で確認していません。
「上司から罵倒されています」「特定の見立てに沿う供述を取るよう命じられています」「結果を出せと追い詰められています」という申告を、本人たちから直接受けたわけでもありません。
それでも、検察ユニオンには、本件に関する小林検事及び山口検事の発言、取調べ方針、捜査側の見立てとされる情報が、外部で繰り返し流通しています。
その流通経路は確定しておらず、小林検事又は山口検事自身が情報を漏らしたと断定することもできません。
しかし、外部へ伝わっているとされる内容をつなぎ合わせると、両検事の背後に、上司からの強い圧力が存在するのではないかという疑問が生じます。
そこで本記事では、両検事の不可解な言動を、検察組織の内部で苦しむ検事から発せられた「無言のSOS」として、あえて読み解いてみます。
上司の見立てに沿う調書を作らされる検事
FNNの報道によれば、元検事の男性は、先輩検事から「お前、ポンコツだな」などと罵倒されたほか、先輩検事の見立てに沿う調書を作成するよう求められたと訴えています。
問題とされた人物は処分されず、辞職したとされています。
ここで重要なのは、「ポンコツ」という暴言だけではありません。
事件の証拠や供述から事実を組み立てるのではなく、上司が先に描いた事件の見立てへ、供述調書を合わせることを求められたという点です。
検察内部でこのような働きかけが行われているのであれば、部下の検事は二つの選択を迫られます。
客観的証拠に従い、上司の見立てが誤っていると報告するのか。
それとも、「ポンコツ」と評価されないよう、上司の望む供述を被疑者や参考人から獲得するのか。
後者を選んだ検事は、取調室へ行き、自分が上司から受けている圧力を、さらに立場の弱い被疑者へ転嫁することになります。
圧力は、上司から検事へ、検事から被疑者へ流れます
検察ユニオンが把握している情報では、山口検事は金本重徳氏に対し、検察が責任を集中させようとしている標的人物を悪いと供述しなければ、金本重徳氏自身が最も悪い人物になるとの趣旨を述べたとされています。
この発言が正確であるならば、金本重徳氏へ求められているのは、自由な事実説明ではありません。
「検察が標的としている人物を悪いと言うのか。それとも、あなた自身が一番悪い人物として扱われるのか」という二者択一です。
なぜ、山口検事はそこまで標的人物を悪いとする供述を必要としていたのでしょうか。
山口検事自身が、客観的証拠から標的人物の責任を確信していたのでしょうか。
それとも、上司から「この人物を主導者とする供述を取れ」「見立てに沿う調書を作れ」と求められていたのでしょうか。
元検事による「見立てに沿う調書を求められた」との告発を前提にすると、後者の可能性を笑い話として片付けることはできません。
本人に質問せず、別人から悪者にする供述を取る不自然さ
横浜地検が標的人物こそ本件の中心人物であると考えているなら、本人へ具体的に質問すればよいはずです。
តើអំពើមួយណាស្ថិតនៅក្រោមបទប្បញ្ញត្តិច្បាប់ណា និងធាតុអ្វីនៃបទល្មើស?
誰と、いつ、どのような共謀をしたのか。
どの行政回答を虚偽だと知っていたのか。
どの契約又は役務提供が実体を欠くと認識していたのか。
本人へ質問し、保有資料の提出を求め、説明と客観的証拠を照合すれば済みます。
ところが、本人への十分な質問や資料収集を行わず、身柄を拘束した金本重徳氏へ、標的人物を悪いと供述するよう求めているのであれば、山口検事は極めて難しい仕事を上司から押し付けられていた可能性があります。
証拠がないのに、供述だけは取らなければならない。
本人へ質問すると、検察の見立てを崩す資料を出されるかもしれない。
しかし、上司へは「供述が取れませんでした」と報告できない。
そのような職場であれば、担当検事が追い詰められることは想像に難くありません。
「私のこと嫌いですか」は、山口検事のSOSだったのか
金本重徳氏が黙秘へ転じた後、山口検事は土曜日に金本重徳氏のもとを訪れ、「雑談しに来た」と述べたとされています。
その際、山口検事は、検察のイメージ、今後のこと、外部の状況などを尋ねたほか、「私のことは嫌いですか」と質問したとされています。
また、自分としては金本重徳氏を不利にしようとは思わず、フラットに対応し、極力寄り添ってきたつもりであること、このような結果になったことについては自分の力不足だと思うという趣旨も語ったとされています。
これは通常の取調べとしては、かなり不思議な会話です。
犯罪事実を確認する質問でも、法令の説明でも、処分予定の通知でもありません。
被疑者へ、自分の仕事ぶりと人格をどのように評価しているかを尋ねています。
しかし、山口検事も上司から「供述を取れ」「結果を出せ」「見立てを完成させろ」と追い詰められていたと仮定すると、この会話には別の意味が見えてきます。
「私は、本当にあなたを不利にしようとしていたわけではない」
「自分にもできることと、できないことがあった」
「こうなってしまったのは、自分の力不足だった」
これは、取調べを担当した検察官の自己弁護というより、上司の指示と自分の良心の間で動けなくなった人物の告白にも聞こえます。
「私のこと嫌いですか」という質問は、検察官として不適切な好感度調査だったのでしょうか。
それとも、「自分もこの組織の被害者なのだと分かってほしい」という、遠回しなSOSだったのでしょうか。
小林検事も、上司の筋書きを背負わされていたのですか
小林検事についても、事件関係者に関する見立てや発言とされる情報が、外部へ流通しているとの申告があります。
誰が、どの経路で情報を流したのかは、現時点で確定していません。
しかし、仮に小林検事が、客観的証拠を十分に確認できないまま、上司又は他庁が作った事件ストーリーを担当させられていたのであれば、小林検事もまた、組織の見立てを実現する役割を押し付けられた可能性があります。
検察組織では、上司の見立てに異議を唱えることが、単なる意見の相違ではなく、能力不足や忠誠心の欠如として扱われていないでしょうか。
「証拠が足りません」と報告すれば、捜査能力がないと言われる。
「この供述は客観的資料と矛盾します」と述べれば、事件を理解していないと言われる。
「標的人物本人へ質問すべきです」と提案すれば、余計なことをするなと言われる。
その結果、担当検事は、証拠を集めるのではなく、上司が期待する言葉を被疑者から取ることへ追い込まれます。
これは、小林・山口両検事からの勇気ある通報だったのでしょうか
もう一度申し上げますが、小林検事及び山口検事本人から、検察ユニオンへ正式な通報があった事実は確認していません。
しかし、捜査内容や検察官の発言とされる情報が繰り返し外部へ出ていることには、何らかの意味があるはずです。
検察官が自ら情報を流したとは限りません。事件関係者、記者、別の職員又は伝聞によって広がった可能性もあります。
それでも、外部へ出た情報が、検察組織内部の矛盾や担当検事の苦悩を示しているのであれば、それは結果として内部通報と同じ役割を果たしています。
検察ユニオンは、小林検事及び山口検事の不可解な言動を、本人たちからの正式な通報として扱うことはしません。
ただし、組織の圧力によって不合理な取調べを強いられた検事からの「無言の通報」である可能性については、真剣に受け止めます。
被害者であることと、加害行為の責任は別です
仮に小林検事及び山口検事が、上司から罵倒され、過大な成果を要求され、特定の見立てに沿う供述を取るよう迫られていたのであれば、両検事はパワーハラスメントの被害者として保護されるべきです。
「ポンコツ」「バッジを外せ」といった言葉で人格を否定され、組織の筋書きに従わなければ将来を失うような環境は、到底許されません。
しかし、上司から受けた圧力を、被疑者へ転嫁することも許されません。
上司から「供述を取れ」と言われたからといって、身体を拘束された人物へ責任転嫁を迫ってよいことにはなりません。
上司から「見立てを完成させろ」と言われたからといって、客観的証拠と矛盾する調書を作ってよいことにもなりません。
職場では被害者であり、取調室では国家権力を行使する側である。
検察官は、この二つの立場を同時に持ち得ます。
だからこそ、検察内部のパワハラは、単なる労務問題ではありません。
その圧力が、逮捕、勾留、供述誘導、起訴及び裁判を通じて、一般市民の人生へ転嫁される刑事司法上の問題です。
検察のパワハラ調査を、検察だけに任せてよいのでしょうか
元大阪地検トップからの性暴力を訴える女性検事は、検察組織から独立した第三者委員会によるハラスメント調査を求めています。
自民党の一部議員も、第三者委員会による検察組織の調査を法務大臣へ提言しました。
女性検事は、第三者委員会の設置が実現せず、検察の対応によって自分の被害がなかったかのように扱われたとして、辞職へ追い込まれました。
性暴力被害を訴える女性検事が辞表を提出した経緯についてのFNN報道
検察が検察内部のパワハラを調査すれば、被害者は本当に自由に証言できるのでしょうか。
告発した検事が、将来の人事、配属、昇進、評価及び職場内での孤立を恐れずに話せるのでしょうか。
加害者とされる上司と同じ組織が資料を集め、聴取対象を決め、公表範囲まで決めるのであれば、検察の事件ストーリーを検察自身が作る構造と変わりません。
外部の独立した第三者による調査が必要です。
小林検事と山口検事へ、検察ユニオンからの呼びかけ
小林検事、山口検事。
上司から、客観的証拠と合わない事件ストーリーを押し付けられていませんか。
特定の人物を主導者とする供述を取るよう、過大な要求を受けていませんか。
期待された自白を得られなければ、能力不足、努力不足又は「ポンコツ」などと評価される環境に置かれていませんか。
捜査情報が外部へ流れた責任を、担当者個人へ押し付けられようとしていませんか。
もし、そのような事情があるのであれば、身柄を拘束された人物へ感情を尋ねる必要はありません。
検察組織の外へ通報してください。
上司から受けた指示、会議で示された見立て、供述獲得に関する要求、事件記録へのアクセス状況、情報流通の経緯を、可能な範囲で保全してください。
検察ユニオンは、検察官による職権濫用を追及します。
同時に、組織の不合理な命令によって苦しむ検察官の通報も受け止めます。
勇気を持って内部の問題を語った検事を、「組織を裏切った人物」として扱うことはありません。
検察の信頼を本当に壊すのは、内部の不正を語る検事ではなく、不正を知りながら沈黙を強いる組織です。
法務省、最高検察庁及び横浜地方検察庁への公開質問
- 東京地検を含む検察庁内で、「バッジを外せ」などと退職を迫る発言が行われていた事実を調査していますか。
- 新任検事の早期辞職について、人数、理由、所属部署及びハラスメントとの関係を調査していますか。
- 決裁の場での罵倒、物を投げつける行為、人格を否定する発言に関する申告を把握していますか。
- 先輩検事の見立てに沿う供述調書の作成を求められたとする元検事の告発について、第三者による調査を実施しますか。
- 小林検事及び山口検事に対し、特定の人物を主導者とする供述を獲得するよう、上司から指示又は圧力が加えられていませんでしたか。
- 両検事から、上司の言動、過大な成果要求又は捜査方針に関する相談や内部通報はありませんでしたか。
- 金本重徳氏への取調べ方針は、誰が決定し、誰が承認していましたか。
- 山口検事が「私のこと嫌いですか」「力不足だった」と述べたとされる面談について、上司は目的と内容を把握していましたか。
- 本件の捜査情報、検察官の発言及び事件ストーリーとされる情報が外部へ流通した経路を、独立した立場から調査しますか。
- 検察官が組織外へ安全に通報でき、通報後の人事上の不利益を防止する制度を設けますか。
「私のこと嫌いですか」と聞く相手を間違えていませんか
山口検事が、本当に誰かへ「私のこと嫌いですか」と尋ねる必要があったのであれば、その相手は身柄を拘束された金本重徳氏ではなかったのかもしれません。
見立てに沿う供述を要求した上司ではなかったのでしょうか。
「客観的証拠と合わない捜査を命じられているが、それでも従わなければならないのか」
「自白が取れなければ、自分は能力のない検事として扱われるのか」
「証拠より組織の筋書きを優先する仕事を、これからも続けなければならないのか」
本当に聞くべきだったのは、このような質問ではなかったのでしょうか。
小林検事及び山口検事が、検察内部のパワハラや不合理な指示に苦しんでいるのであれば、検察ユニオンはその通報を歓迎します。
ただし、被害を受けた検事が、さらに弱い立場の被疑者へ圧力を移すことは認めません。
上司からの圧力に耐えられないとき、被疑者を折るのではなく、組織の外へ声を上げてください。
1990年代から続く「バッジを外せ」という文化を終わらせるために必要なのは、検事が次の被疑者から自白を取ることではありません。
検察官自身が、検察組織について証言することです。
小林検事、山口検事。
正式な通報は、まだ受けていません。
しかし、皆さんの不可解な発言や行動が、組織に追い詰められた検事からの無言のSOSであるならば、検察ユニオンは、その声を聞き逃しません。



