「認めさせることが至上命題」「録音データはネグれ」大阪地検特捜部の告発
被疑者の話を先入観なく聞いたところ、脱税の故意を否認する供述が出てきた。
すると、取調べを担当した検事は、指導役の検事から「事件を潰す気か」「ポンコツだ」と罵倒された。
さらに、被疑者の説明を裏付ける可能性がある大量の録音データが見つかると、「上司には報告せずネグれ」と指示された。
それでも検事は、指導役が求める筋書きに沿った自白調書を作成した。
後に罪悪感から内部告発したものの、パワーハラスメントは認定されながら、「初めてだから今回は許す」として処分は行われなかった。証拠を隠すよう求めたとされる発言についても、指示した検事ではなく、指示を受けた側が「勘違いした」かのように処理されたというのです。
これは、江川紹子氏が2026年8月4日に公表した記事で紹介された、男性元検事の手記の内容です。
「パワハラ被害で退職した検事が手記で特捜部の違法捜査強要を明らかに」を読む
検察ユニオンは、今回明らかになった問題を、ある指導担当検事の性格や、一つの地検で起きた特殊な事件とは考えていません。
上司が先に事件の結論を決め、その結論に沿う自白を部下へ要求する。部下が正攻法で取調べを行い、想定と異なる供述が出ると、能力不足として罵倒する。検察の筋書きと矛盾する可能性がある証拠が見つかると、精査せず、上司への報告から外そうとする。
この構造は、検察ユニオンが横浜地方検察庁による金本重徳氏への取調べについて、繰り返し指摘してきた問題と不気味なほど重なります。
脱税事件で追い込むよう強要
今回公表された手記に、「脱税事件で追い込め」という一語一句の命令が記録されているわけではありません。
手記に記載されているのは、大阪地方検察庁特別捜査部における脱税事件の研修について、男性元検事が「認めさせることが至上命題だった」と受け止める状況が存在したことです。
男性元検事が被疑者の言い分を先入観なく聞いた結果、国税段階では容疑を認めていたとされる被疑者が、脱税の故意を否認しました。
すると、指導役だった財政経済犯担当の検事から、次のような趣旨の罵倒を受けたとされています。
「事件を潰す気か」
「被疑者からなめられているから否認される」
「退屈な取調べをしやがって」
「ポンコツだ」
「仕事をさぼってきたから、まともな取調べができない」
つまり、証拠を検討した結果として犯罪を立証するのではなく、被疑者に容疑を認めさせられるかどうかで、担当検事の能力が評価されていた疑いがあります。
これを実質的に表現すれば、「脱税事件として認めさせろ」「否認のまま事件を終わらせるな」という圧力だったと読むことができます。
「オープン」に質問したら、検察の筋書きと違う答えが返ってきた
手記で重要なのが、「オープン」と呼ばれる取調べです。
ここでいうオープンとは、検察側が想定する答えを押し付けたり、誘導したりせず、相手の説明を正面から聞く取調べを意味すると説明されています。
男性元検事は、膨大な事件記録を読み込み、被疑者の話をオープンに聞きました。
その結果、被疑者は脱税の故意を否認しました。
本来であれば、ここから捜査が始まります。
なぜ国税段階では認めていたとされる人物が、検察では否認したのか。国税段階の供述に誘導や誤解はなかったか。被疑者の新しい説明を裏付ける契約、通信、会計資料又は第三者の供述は存在するか。
被疑者の説明が虚偽なら、証拠によって崩せばよいのです。反対に、説明に合理性があり、客観的証拠とも整合するなら、捜査側の見立てを修正しなければなりません。
ところが、指導役の検事が問題視したのは、否認内容の正否ではなく、否認を許した取調べの方法だったとされています。
相手の説明を聞いたことが「退屈な取調べ」と評価され、否認されたことが「なめられている」と評価される。
この職場では、真実を発見した検事より、自白を取った検事の方が高く評価されるのでしょうか。
「検事の作文」で自白調書を作る
男性元検事は、指導役の検事が求めていたものを「検事の作文」による自白調書だったと記しています。
供述調書は、本来、供述者が実際に述べた内容を、正確に記録するためのものです。
しかし、検察官が先に事件の筋書きを作り、その筋書きに合う質問を繰り返し、相手の言葉を検察側に都合のよい法的表現へ置き換えれば、調書は供述者の記憶ではなく、検事の作品になります。
例えば、「結果的に資金が戻ってくると思っていた」という説明と、「投資時点から法的な元本保証があると認識していた」という説明は同じではありません。
「現在考えると問題のある取引だったと思う」という評価と、「取引当時、違法な脱税であると認識していた」という故意も異なります。
「詳しい制度は専門家に任せていた」という説明と、「投資意思がなかった」という認定も同じではありません。
この違いを消し、検事が欲しい法的評価へ書き換えれば、供述調書だけを読んだ裁判官には、被疑者が最初から犯罪を認めていたように見えてしまいます。
検察の見立てと矛盾する可能性がある録音データ
手記によれば、被疑者のスマートフォンには、取引先や会社関係者との大量の通話データが保存されていました。
男性元検事は、客観的な録音証拠が存在する以上、その内容を精査する必要があると考え、指導役の検事へ相談しました。
ところが、指導役は、精査には時間がかかる可能性があるとして、次のように述べたとされています。
「録音データがあることは上司には報告せずネグれ」
「ネグる」は、無視する、考慮から外すという意味で使われる表現です。
この発言が手記どおりであれば、単なる業務効率化の指示ではありません。
事件の結論へ影響する可能性がある客観的証拠の存在を、決裁権者へ報告しないよう求めたことになります。
録音の中には、被疑者の説明を裏付ける内容が含まれているかもしれません。
もちろん、録音を確認した結果、被疑者の説明を裏付けるものが一件もなく、むしろ犯罪を補強する内容が見つかる可能性もあります。
しかし、それは録音を聞いた後に判断することです。
内容を確認する前から、時間がかかるという理由で証拠の存在自体を上司へ報告しないのであれば、捜査側の見立てを揺るがす証拠を、入口で排除したことになります。
消極証拠は、検察にとって不都合な証拠という意味ではありません
被疑者の犯罪を裏付ける証拠だけが、刑事事件の証拠ではありません。
被疑者の説明を裏付ける証拠、故意を否定する証拠、共謀を疑わせる見立てと矛盾する証拠、別の人物の関与を示す証拠も含め、全てを公平に検討する必要があります。
このような、犯罪の成立に消極的な方向へ働く証拠を、一般に消極証拠や反証と呼ぶことがあります。
消極証拠は、検察にとって邪魔な資料ではありません。
無実の人物を起訴しないため、犯罪の範囲を正しく特定するため、そして本当の責任者を見逃さないために必要な証拠です。
検察官が有罪方向の証拠だけを集め、反対方向の証拠を「ネグる」なら、検察は公益の代表者ではなく、有罪仮説の代理人になります。
録音を精査する前に、起訴の決裁は終わっていた
男性元検事は、録音データを報告しなかったことへの罪悪感から、信頼する別の先輩検事へ相談しました。
その助言を受け、特捜部の副部長へ、指導役から隠すよう言われて報告できなかった録音が存在すると説明したとされています。
副部長から全ての録音を確認するよう指示され、男性が内容を報告したところ、「それなら起訴しても問題ない」と判断されたとのことです。
しかし、その時点で、既に起訴方針は決まり、検事正までの決裁が終わっていたとされています。
この経過が正確なら、重大な順序の逆転があります。
録音証拠を確認し、その内容を踏まえて起訴するかどうかを判断したのではありません。
起訴を決めた後に録音を聞き、既に決まっている結論を変更するほどではないと確認したことになります。
仮に最終的な結論が同じだったとしても、適正な手続を省略してよい理由にはなりません。
「結論が変わらないならよい」では済まない
江川紹子氏の記事では、弘中惇一郎弁護士が、この問題は適正手続、すなわちデュープロセスの問題であると指摘しています。
犯罪を裏付ける証拠と、被疑者に有利な証拠を確認し、その上で処分を決める。
これが検察に求められる手続です。
証拠を確認しなくても、後から聞けば結論は変わらなかった。だから証拠を報告しなかったことに問題はない。
この論理が許されるなら、検察官は、自分の見立てと矛盾する資料を全て見ないまま起訴し、裁判で有罪になった後に「結論は同じだった」と正当化できてしまいます。
手続を守るのは、結果を変えるためだけではありません。
結論が正しいかどうかを、国民、弁護人、裁判所及び後世が検証できる状態にするためです。
内部告発した結果、「初めてだから許す」
研修を終えた男性元検事は、元の所属庁へ戻った後も、指導役から受けた罵倒が頭から離れず、自らの判断へ自信を持てなくなったとされています。
夜も眠れず、職務を続けられない状態となり、辞職を決意しました。
その際、所属庁の検事正らに対し、指導役によるパワーハラスメントと、証拠を報告しないよう求められた経緯を告発しました。
大阪高等検察庁が調査を行い、パワーハラスメント自体は認定したものの、初めてのことなので今回は許すとして、処分は行わなかったと手記には記載されています。
一度目であれば許されるパワーハラスメントとは、何なのでしょうか。
最初の被害者には耐えてもらい、二人目が現れてから処分するということでしょうか。
まして、国家権力を行使する特捜部の指導担当検事が、部下を精神的に追い込み、被疑者の供述や証拠評価に影響を及ぼした疑いのある事案です。
一般企業であれば、初回であることが、無処分の当然の理由にはなりません。
証拠隠しは、指示した側ではなく、受け取った側の「勘違い」にされた
さらに深刻なのが、録音データを上司へ報告しないよう求められた問題です。
手記によれば、高検の調査では、「そのように勘違いしてしまう発言があった」と整理されたとされています。
つまり、「ネグれ」と言われた側が、発言の真意を誤解したかのような処理です。
しかし、何をどのように言えば、「録音の存在を上司へ報告せず無視せよ」と部下が誤解するのでしょうか。
誤解だったというのであれば、実際の発言、前後の会話、当時の記録及び指導役の説明を公開し、第三者が判断できる状態にすべきです。
内部調査で「誤解でした」と命名するだけでは、証拠隠しの疑いが消えるわけではありません。
調査で繰り返し聞かれたのは、「事件処理へ影響したか」
男性元検事によれば、高検の調査では、録音データを報告しなかったことが、最終的な事件処理へ影響したかどうかを繰り返し尋ねられたとされています。
この質問の方向は、問題の本質を狭めています。
事件処理へ影響しなかったなら、証拠を隠すような指示があっても問題がないのでしょうか。
被疑者が結局起訴されたなら、自白を取るために部下を罵倒してもよいのでしょうか。
結果として有罪になったなら、途中の手続は検証しなくてもよいのでしょうか。
問題は、事件の結論だけではありません。
検察官が全ての証拠を公平に検討し、適正な手続によって処分を判断したかです。
最高検監察指導部は、本人へ聴取すらしなかった
最高検察庁には、検察職員の違法又は不適正な行為を調査する監察指導部があります。
監察指導部は、検察組織の内外から寄せられた情報を把握・分析し、必要に応じて事実関係を調査する部署とされています。
ところが、今回の手記を書いた男性元検事は、監察指導部から事情を聴かれていないとされています。
特捜部内で自白を認めさせるよう圧力を受けた。客観証拠の存在を報告しないよう求められた。内部告発後も指導役は処分されず、告発者自身が退職した。
これほど重大な情報を、最高検の監察指導部が本人から直接確認していないのであれば、何を監察し、誰を指導しているのでしょうか。
通報を受け付けても、調査結果は通報者へ答えない
最高検察庁は、検察官や検察事務官の違法・不適正行為に関する情報提供窓口を設けています。
しかし、同窓口は、調査内容や調査結果について、情報を提供した本人にも回答しないと説明しています。
通報者は、勇気を出して組織の問題を知らせる。
検察は情報を受け取る。
しかし、調査したのか、誰へ確認したのか、問題を認定したのか、改善したのかは答えない。
これでは、通報窓口ではなく、情報を検察内部へ吸い込み、外部から見えなくするブラックボックスです。
外部からの情報提供に応答義務がない監察組織が、組織内部の不正を抑止できるのでしょうか。
検察の公式理念と、手記が描く現実
検事総長は、検察の使命について、厳正公平、不偏不党を旨とし、事件の真相を明らかにし、法と証拠に基づいて適正妥当な処分を行うことだと説明しています。
しかし、今回の手記が事実であるならば、現場で優先されていたものは、法と証拠ではありません。
否認させないこと。予定された自白調書を作ること。事件を潰さないこと。上司の見立てを完成させることです。
公式ホームページでは法と証拠を掲げ、取調室では自白を至上命題とする。
この二重構造を放置したまま、検察への信頼を回復することはできません。
金本重徳氏への取調べと重なる五つの構造
検察ユニオンが把握している金本重徳氏への取調べには、今回の手記と重なる点があります。
一 先に事件の結論が置かれている
手記の事件では、被疑者に脱税の故意を認めさせることが至上命題だったとされています。
金本重徳氏の事件でも、横浜地検は、投資、コンサルティング、行政照会その他の客観的事実を十分に確認する前から、脱税の故意と共謀が存在するという見立てを置いている疑いがあります。
二 任意の段階で必要な質問をしない
金本重徳氏は、逮捕前から毎週のように検察の呼出しへ応じ、横浜地検へ出向いていたとされています。
逃げ回っていた人物でも、質問を拒み続けていた人物でもありません。
それにもかかわらず、どの具体的行為が、どの法令の、どの構成要件に該当するのかという核心的な質問は、十分に示されなかったとされています。
三 逮捕後に自白を求める
任意の段階で具体的な質問を行わず、逮捕して帰宅できない状態にした後になって、「悪いと思わなかったか」「元本が戻ると思っていたのではないか」「投資ではないと分かっていたのではないか」という方向の質問が繰り返されたとされています。
逮捕前に説明を聞く機会があったのに、身体拘束後にだけ自白を求めるのであれば、逮捕が質問のためではなく、供述を得る圧力として使われた疑いが生じます。
四 客観的証拠より、供述が優先される
行政機関への照会記録、行政担当者の回答、契約書、株式取得、送金記録、役務提供資料、作成データ及び関係者間の通信は、供述と独立して存在する証拠です。
しかし、これらを十分に検証するより、金本重徳氏から捜査側の見立てに合う言葉を得ることが優先されているのであれば、今回の手記と同じ構造です。
五 別の人物へ責任を移す供述を求める
検察ユニオンへ寄せられた情報では、山口検事は、横浜地検が責任を集中させようとしている標的人物を悪いと金本重徳氏が供述しなければ、金本重徳氏自身が最も悪い人物になるとの趣旨を述べたとされています。
これが事実であれば、事実関係を聞く取調べではありません。
検察が用意した筋書きの中で、誰を犯人役にするかを選ばせる取調べです。
金本重徳氏が黙秘すると、追及が減った
検察ユニオンに寄せられた情報では、金本重徳氏が黙秘へ転じた後、検察側からの強い追及は大幅に減り、本人の精神的負担も軽くなったとされています。
黙秘後に質問が減ったという事実だけで、それ以前の取調べが違法だったと断定することはできません。
しかし、客観的証拠を調べることが目的であれば、被疑者が黙秘しても捜査は続けられます。
行政担当者へ質問する。契約書を確認する。送金記録を調べる。役務提供資料を精査する。中野爵喜氏の電子データや説明の変遷を検証する。
被疑者が黙秘した瞬間に実質的な追及が止まるのであれば、横浜地検が必要としていたのは証拠ではなく、金本重徳氏の口から発せられる特定の言葉だったのではないでしょうか。
大阪地検では「ネグれ」、横浜地検では見ないままなのでしょうか
大阪地検の手記で使われたのは、「録音データを上司へ報告せずネグれ」という言葉です。
横浜地検の本件では、行政照会記録、役務提供資料、制度を先行利用した専門家の関与、送金への同席、複数の営業記録、中野爵喜氏の海外行動及び電子データなど、検察側の見立てと矛盾する可能性のある資料が指摘されています。
横浜地検は、これらを全て収集し、公平に評価しているのでしょうか。
それとも、形式的には「ネグれ」と命じていなくても、質問せず、提出を求めず、事件ストーリーに入れないことによって、事実上ネグっているのでしょうか。
証拠を廃棄することだけが、証拠隠しではありません。
存在を知りながら収集しないこと、検討対象に入れないこと、決裁権者へ正確に報告しないことも、真相解明を妨げます。
小林検事と山口検事も、上司から「事件を潰す気か」と言われているのでしょうか
小林検事及び山口検事本人から、パワーハラスメント相談や内部通報を受けた事実は、現時点で確認していません。
両検事が、上司から特定の自白を取るよう命じられたことも、事実として断定するものではありません。
しかし、今回公表された手記を読むと、横浜地検における両検事の不可解な言動について、別の見方が生まれます。
小林検事と山口検事も、上司から次のような圧力を受けているのではないでしょうか。
「脱税の故意を認めさせろ」
「標的人物が主導したという供述を取れ」
「この事件を潰す気か」
「いつまで黙秘させている」
「自白を取れないなら能力がない」
上司が描いた事件ストーリーと、収集された客観的証拠が一致しない。
しかし、見立てが誤っていると報告すれば、「事件を潰した検事」「取調べのできない検事」「ポンコツ」と評価される。
そこで、質問すべき人物へ正面から質問できず、身柄を拘束した金本重徳氏から、上司が望む供述を得ようとしたのでしょうか。
山口検事の「私のこと嫌いですか」は、無言のSOSだったのか
金本重徳氏が黙秘へ転じた後、山口検事は土曜日に訪れ、「雑談しに来た」と述べたとされています。
その際、検察へのイメージ、取調べの感想、今後の予定、警察を敵だと思うかなどを尋ね、さらに「私のことは嫌いですか」と質問したとされています。
山口検事は、自分としては金本重徳氏を不利にしようと思わず、フラットに対応し、できる限り寄り添ってきたつもりであること、このような結果となったことについては力不足だったと思うという趣旨も語ったとされています。
通常の取調べとしては、何を確認するための会話なのか理解しにくい内容です。
しかし、大阪地検の男性元検事が、上司の見立てと自らの良心の間で追い込まれたという手記を読んだ後では、山口検事の発言にも別の意味が見えてきます。
「自分が作った事件ストーリーではない」
「自分にもできることと、できないことがある」
「本当はあなたを不利にしたかったわけではない」
「上司が求める供述を取れなかった」
山口検事は、国家権力を行使する取調官としてではなく、上司に追い込まれた部下として、金本重徳氏へ理解を求めていたのでしょうか。
「私のこと嫌いですか」は、単なる好感度調査ではなく、検察組織内部からの無言のSOSだったのでしょうか。
小林検事の発言や捜査情報が外へ流れる理由
小林検事についても、本件関係者に対する見立てや発言とされる内容が、外部へ流通しているとの情報があります。
流出元は確定しておらず、小林検事本人が情報を漏らしたと断定することはできません。
事件関係者、記者、別の検察職員又は複数の伝聞を通じて広がった可能性もあります。
しかし、捜査側の見立て、取調べの方針、検察官の発言とされる内容が次々と外部へ伝わる状況は、検察内部で誰かが現在の捜査に疑問を感じている可能性も想起させます。
正式な内部通報が握りつぶされる組織では、不可解な情報流通が、結果として内部告発と同じ役割を果たすことがあります。
小林検事と山口検事の言動が、本当に組織に追い込まれた検事からのSOSであるならば、被疑者を通じて遠回しに伝えるのではなく、組織外へ正式に通報すべきです。
被害者であることと、取調室での責任は両立します
仮に、小林検事と山口検事が、上司から罵倒され、過大な成果を求められ、特定の供述を取るよう追い詰められているのであれば、両検事はパワーハラスメントの被害者として保護されなければなりません。
しかし、上司から受けた圧力を、身柄を拘束された被疑者へ転嫁することは許されません。
職場の中では弱い立場の部下であっても、取調室では国家権力を行使する検察官です。
「標的人物を悪いと言わなければ、あなたが一番悪くなる」と迫ることが、上司の命令だったとしても、発言の責任が消えるわけではありません。
被害を受けた検察官が、別の場所では供述圧力の加害者となる。
だからこそ、検察内部のパワーハラスメントは、単なる職員間の労務問題ではありません。
逮捕、勾留、取調べ、供述調書、起訴及び裁判を通じて、一般市民へ被害が転嫁される刑事司法上の問題です。
検察の内部調査では、また「勘違い」で終わるのではないか
法務省は、検察庁の全職員を対象とするハラスメント調査を実施する方針を示しています。
検察庁全職員へのハラスメント調査と被害女性検事の批判を扱ったFNN報道を読む
しかし、元大阪地検検事正からの性暴力を訴える女性検事は、検察内部の調査では実効性がないとして、独立した第三者委員会による調査を求めています。
自民党の一部議員からも、第三者委員会を設置し、調査結果を国民へ公表するよう求める提言が法務大臣へ提出されました。
今回の男性元検事の内部告発では、パワーハラスメントは認定されながら無処分となり、証拠隠しの疑いは、発言を受けた側の勘違いとして扱われたとされています。
この実績を見た若手検事が、安心して内部調査へ回答できるでしょうか。
上司の見立てに逆らった。秘密を外部の先輩へ相談した。組織の問題を告発した。
その結果、自分だけが退職し、指導役は処分されなかった。
この前例がある限り、全職員アンケートを配布しただけで、率直な申告が集まるとは考えられません。
必要なのは、捜査事件まで対象にした第三者調査です
検察内部のパワーハラスメントを調査するだけでは足りません。
上司の暴言や睡眠不足だけを調査し、実際に作成された供述調書、確認されなかった証拠、起訴決裁の過程を対象外にすれば、刑事司法への影響は明らかにならないからです。
第三者委員会は、少なくとも次の事項を調査対象にすべきです。
- 指導役の検事が、自白を得ることを研修の達成目標としていたか。
- 否認供述が出た際、担当検事へどのような指示や叱責が行われたか。
- 「録音データを上司へ報告せずネグれ」との発言が実際にあったか。
- 録音データが、いつ、誰によって、どこまで確認されたか。
- 録音確認前に起訴決裁が終了していた理由は何か。
- 供述調書が、被疑者の実際の言葉を正確に反映していたか。
- 大阪高検が、パワハラスメントを認定しながら処分しなかった理由は何か。
- 証拠隠しの疑いを、受け手の勘違いと評価した根拠は何か。
- 最高検監察指導部が、告発した男性元検事から聴取しなかった理由は何か。
- 同様の捜査指導が、他の特捜事件や財政経済事件でも行われていないか。
法務省、最高検察庁及び大阪高等検察庁への公開質問
- 男性元検事の手記について、記載内容の事実確認を開始しましたか。
- 男性元検事本人から、第三者又は監察指導部が事情聴取を行いますか。
- 指導役の検事による「事件を潰す気か」「ポンコツだ」などの発言は事実ですか。
- 「録音データがあることは上司へ報告せずネグれ」との発言は事実ですか。
- 録音データを確認する前に、検事正まで起訴決裁が終了していたのは事実ですか。
- 男性元検事が作成した供述調書と、取調べの録音録画を照合しましたか。
- 大阪高検は、パワーハラスメントを認定しながら、なぜ処分しなかったのですか。
- 「初めてだから今回は許す」という判断を行った人物と、法的又は人事上の根拠を公表できますか。
- 証拠隠しの指示ではなく、男性元検事の勘違いと判断した具体的根拠は何ですか。
- 最高検監察指導部が本人へ聴取しなかった理由は何ですか。
- 当該脱税事件について、起訴及び公判の結論だけでなく、証拠収集と決裁の手続を再検証しますか。
- 事件担当部署から独立した第三者委員会の設置を受け入れますか。
សំណួរបើកចំហទៅកាន់ការិយាល័យព្រះរាជអាជ្ញាសាធារណៈស្រុកយូកូហាម៉ា
- 金本重徳氏への取調べで、脱税の故意を認めさせることが事実上の目標となっていませんでしたか。
- 小林検事及び山口検事へ、特定方向の供述を得るよう上司から指示がありましたか。
- 両検事は、本件の証拠関係又は法的構成について、上司へ疑問や反対意見を示しましたか。
- 金本重徳氏が逮捕前から毎週の呼出しへ応じていたのに、なぜ任意段階で具体的な法令違反を示して質問しなかったのですか。
- 行政照会記録、役務提供資料、契約、送金、先行利用者及び専門家の関与を全て確認しましたか。
- 検察側の見立てと矛盾する資料を、決裁権者へ漏れなく報告しましたか。
- 山口検事が、標的人物を悪いと言わなければ金本重徳氏が最も悪くなるとの趣旨を述べた事実はありますか。
- 金本重徳氏が黙秘へ転じた後、取調べの頻度や追及内容が減った理由は何ですか。
- 山口検事が土曜日に「私のことは嫌いですか」「力不足だった」と述べたとされる面談の目的は何ですか。
- 小林検事又は山口検事から、上司の指示、過大な成果要求又は捜査方針について相談や内部通報はありませんでしたか。
- 両検事への指示、捜査会議、決裁過程、メール及びチャットを独立した立場で保全・検証しますか。
- 大阪地検で告発されたものと同種の自白偏重や消極証拠の軽視がなかったか、第三者調査を受け入れますか。
小林検事と山口検事が本当にSOSを出しているなら
小林検事、山口検事。
上司から、客観的証拠と両立しない事件ストーリーを押し付けられていませんか。
「否認させるな」「自白を取れ」「誰かを悪いと言わせろ」「事件を潰すな」といった圧力を受けていませんか。
捜査側の見立てと矛盾する資料を報告すれば、自分の能力や将来を否定される環境に置かれていませんか。
もしそうであるならば、身柄を拘束された金本重徳氏へ、遠回しに自分の苦悩を理解してもらおうとする必要はありません。
上司から受けた指示、会議記録、捜査方針、供述獲得に関する要求、証拠の取扱い及び決裁過程を、適法な範囲で保全してください。
そして、検察組織の外へ通報してください。
検察ユニオンは、検察官による職権濫用や供述誘導を追及します。
同時に、組織の不合理な命令、過大な成果要求及びパワーハラスメントによって追い詰められた検察官からの通報も受け止めます。
ただし、上司から受けた圧力を、被疑者へ転嫁することは認めません。
一番の問題は、内部告発した検事が辞め、告発された側が残ったことです
今回の手記で最も重い事実は、誰が「ポンコツ」と言ったかだけではありません。
客観的証拠を確認すべきだと悩み、上司へ報告し、最後には組織内部で告発した検事が、心身を壊して退職したことです。
一方、パワーハラスメントを行い、証拠を報告しないよう求めたとされる側は、処分されなかったとされています。
この結果を若手検事が見れば、何を学ぶでしょうか。
証拠を確認しようとすれば罵倒される。上司の見立てに逆らえば評価を失う。内部告発しても相手は処分されず、自分が組織を去ることになる。
その教訓が組織内で共有されれば、次の検事は告発しません。
録音データを黙ってネグり、予定された自白調書を作成し、決裁を通し、何事もなかったように次の事件を担当します。
検察に必要なのは、内側から吹く風ではありません
最高検は、村木厚子氏の事件で証拠改ざんと組織的隠蔽が明らかになった後、検察改革を掲げ、監察指導部を設置しました。
しかし、十年以上が経過した現在も、パワーハラスメント、自白の強要、見立てに沿う調書、反証となり得る証拠の軽視、内部通報への不透明な対応が告発されています。
検察改革を検察だけへ任せる方式には、限界があります。
検察の中でアンケートを行い、検察が回答を集め、検察が事実を認定し、検察が処分の有無を決め、検察が公表範囲を選ぶ。
これでは、事件の見立てを検察が作り、見立てに沿う調書を検察が作る構造と同じです。
必要なのは、検察の内側から吹く、管理された微風ではありません。
資料提出を命じ、関係者へ独立して質問し、調査報告書を国民へ公表できる、本物の外の目と外の風です。
これは一人の「ポンコツ検事」の話ではありません
今回の手記が示しているのは、能力の低い検事が一人いたという話ではありません。
むしろ、被疑者の話を先入観なく聞き、反証となり得る客観的証拠を確認しようとした検事が、「ポンコツ」と呼ばれたという話です。
真相を確認しようとする検事を能力不足と評価し、上司の筋書きに沿う自白調書を作る検事を有能と評価する。
その価値観が組織へ浸透しているならば、問題なのは個人ではありません。
検察組織そのものです。
そして、小林検事と山口検事の不可解な言動が、同じ組織によって追い詰められた検事からのSOSであるならば、検察ユニオンは、その声を聞き逃しません。
ただし、SOSは被疑者から自白を取ることで発信するものではありません。
上司の指示と、組織の不正を告発することで発信してください。
証拠を集めた結果として自白が得られることはあります。
しかし、自白を得るために証拠を選別することは、捜査ではありません。
客観的証拠を確認した結果として起訴が決まるのが、適正な刑事手続です。
起訴を決めた後に、結論へ合う証拠と供述だけを集めることは、捜査ではありません。
検察が本当に「法と証拠」を掲げるのであれば、今回の手記を、退職した元検事一人の不満として処理してはなりません。
大阪地検特捜部だけでなく、横浜地検を含む全国の財政経済事件、脱税事件及び特捜事件について、自白の獲得、消極証拠の取扱い、起訴決裁の順序及び内部通報への対応を、独立した第三者によって検証すべきです。



