株式会社タイミー(Timee)とグレーゾーン解消制度
タイミーは、グレーゾーン解消制度という、サービス等を立ち上げようとする事業者が、現行の法令や規制の適用範囲が不明確な場合、あらかじめ行政に具体的な事業計画を示して確認をする事で、適用範囲を明確にし新事業活動を行いやすくするという、産業競争力強化法に基づいた制度を活用して、3つの回答書を根拠に、自社でプレスリリースを出してまでタイミーが合法サービスであるという宣言をしています。
この記事では、タイミーが労働基準法に本当に違反していないのかを、詳しく確認していきたいと思います。
なお、グレーゾーン解消制度は、照会者であるタイミーが、自身の事業の内容を行政に説明した上で、タイミーがどの法令等に反していないかを確認したいか指定し、行政に具体的に判断してもらう運用となっています。
よって、タイミーが行政にする事業内容の説明が実態と異なっていた場合や、タイミーが行政に確認を求めていない他の法令等に違反していたいた場合には、グレーゾーン解消制度での合法であるとの回答をもってタイミーの事業が全て合法である、とは到底ならないわけです。
この事は、タイミーが獲得した3つの回答書に、
- 貸金業法上の「貸付け」の該当性については、経済的側面や実態に照らして判断している。
- 本照会に対する判断については、次のとおりであるが、照会書で確認できる事実内容を前提としており、その内容に変更がある場合、又は新たな事実がある場合には、判断が変わる可能性がある。
- 当該事業者の従業員への前払いは、労働基準法第11条に規定する賃金の支払いに該当することを前提とするが、当該事業者及び導入企業は、本サービスの提供を開始するにあたっては、賃金支払いの該当性を労働基準法の所管当局にあらかじめ確認する必要がある。
- 仮に契約形態が委任契約であっても、実質的に「貸付け」行為に該当し、貸金業に該当すると整理すべき場合もある
- との前提の下では、導入企業又は従業員に対する信用供与とは言えず
- 上記前提と相違し、実質的には貸付けを行っていると認められる場合には、導入企業又は従業員に対する金銭の貸付けに該当し、貸金業法第2条第1項に規定する貸金業に該当する可能性が高いと考えられる。
- 照会書記載の事実を前提にすれば、当該事実が維持されている限りにおいて
などの注意書きが繰り返し使用されている事からも分かる通り、行政はグレーゾーン解消制度においても、実質的に実態を見て判断する事の方が重要である、との一貫した立場を取っている事が良く分かります。
以上を踏まえ、タイミーが労働基準法に本当に違反していないかを、「実質的に実態を見て」確認していきたいと思います。
タイミーは労働基準法24条に違反しているのではないか
タイミーのサービス利用料の仕組み
まずは本記事執筆11月時点でのタイミーのWEBサイトを見てみましょう。
タイミー労働者向けサイト
タイミー企業向けサイト
振込手数料などは除外して大事なポイントだけピックアップすると、タイミーのお金周りの仕組みは下記のようになります。
- 労働者は労働時間分の時給が賃金としてタイミーから支払われる
- 企業はその賃金プラスその賃金の30%分をサービス利用料として上乗せしてタイミーに払う
- タイミーは労働者に支払う賃金の30%分が差額として利益になる
労働基準法では、下記のように定められており、当たり前ですが、労働者への賃金はその全額を払わなければならないと明記されています。
労働基準法
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
② 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
タイミーは労働者に払われるべき賃金の同額をきちんと全額払っているのか
さて、果たしてタイミーのお金周りの仕組みを「実質的に実態を見て」確認すると、労働者が自身でした労働に対して本来もらえるはずの賃金の「全額」が、企業が労働者に支払うべき金額と「同額」で、きちんと支払われていると言えるのでしょうか。
この点、タイミーが行政に照会して獲得した回答書Bと回答書Cを見てみると、タイミーのサービスは労働基準法24条には違反しないと回答されており、一見すると問題ないように見えます。
しかしタイミーが、自身の事業を「照会者が労働者に支払った賃金と同額を、使用者が、照会者にまとめて支払う」との記載で行政に申告しているため、行政もこの点については前提情報として議論していないことが回答書から分かる通り、本記事で問題としている、労働者にきちんと賃金を「同額かつ全額」払っているのか、という点については、そもそも労働基準法に違反するかしないかの判断材料にすらされていないのです。
ですので、少なくとも労働基準法24条に違反するかどうかについて、この回答書Bと回答書Cでは、タイミーが自社でプレスリリースを出してまで合法であると公然と宣言するほどの根拠には、実は全くなっていないのです。
では、改めてタイミーが労働者にきちんと賃金を「同額かつ全額」払っていると言えるのか、「実質的に実態を見て」みると、ポイントとなるのはタイミーがサービス料という名目で企業から徴収する、労働者の賃金の30%分になりそうです。
一般的な感覚でも、30%という金額は額としてもかなり大きいと感じられる方も多いかもしれませんが、敢えてここでは深く言及せずに、このサービス料という名目がなんの費用なのかを「実質的に実態を見て」みると、労働者の賃金に対して30パーセントを掛けている、賃金と完全に相関関係にある費用であるため、これは賃金の一部であるとするのが妥当ではないでしょうか。
タイミーが照会書に前提条件としての事業説明をしている記載を見ても、企業に対する、マッチングシステム利用料・立替払い代行料・採用サポート費用、などがサービス料である、と言わんとしてるように感じますが、このサービス料が賃金との完全なる相関関係のもと決定される金額である以上、これが賃金とは無関係であり、タイミーは労働者が本来もらうべき賃金の「同額かつ全額」をきちんと支払っているとするのは、流石に無理が過ぎるでしょう。
出会い系などのようなマッチングアプリのように労働者とのメッセージなどのやりとりに対して料金が発生する・立替払いの回数や金額によって料金が左右される・採用した人数や求人掲載ページの露出度に応じて料金が発生する、のであれば100歩譲ってまだ議論の余地はあるかもしれませんが、それでも賃金の30%に相当するような金額の場合は、「実質的に実態を見て」みると、かなり怪しく感じます。
こうしてみるとタイミーは、「実質的に実態を見て」派遣業と変わらないような形態でのシンプルな労働者派遣に見えるにも関わらず、労働者と直接の雇用契約を結ぶことは避け、労働者とは利用規約・企業とは業務委託契約・自身はその両者をマッチングしているだけであると敢えて複雑に説明し、金銭の性質も「実質的に実態を見て」賃金であるのに、立替払いやサービス利用料である、などと名目を巧みに利用して言い換えて表現することで、「形式的には」全く新しいシンプルなサービスとして見えるように作り替えた、と感じるのは当組合だけでしょうか。
以上、当組合はタイミーは労働基準法に違反して労働者の賃金を不当に搾取しているものと判断しています。
コメント
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簡単な取引の様な雇用で 使いものにもならない雇用で正当な賃金を請求 権利と化するんでしょうか?