先日、社会福祉法人千歳会の職員の方々(以下、「請求者」といいます)から、内山美和子介護主任(以下、「被請求者」といいます)について降格要求がなされました。
同要求書によると、請求者は同僚職員からの内部通報により、内山美和子介護主任及び丸橋裕子看護職員が以下の行動をとっていたことが判明しております。
(1)被請求者は管理職であるにもかかわらず、社内で協議することもなく、行政機関に対し、法人の人手不足、教育不足等の内情を密告したこと
(2)密告の内容は、通常であれば、法人内で容易に解決出来る問題であるにも関わらず、法人及び現場職員に対し、事前に何らの問題指摘及び指導を行うこともなく、法人に対する、いわゆる嫌がらせ行為の一環として行政機関に対し密告したこと
(3)当該密告により、5千万円もの法人の利益が失われ、結果として職員への賞与支払いが困難になっていること
さらに、この他に、内山美和子介護主任は、管理者としての責任をはたすことなく、自らの所属する労働組合に加入している「仲間」の職員と、加入していない職員の間で、「明らかな差別的取扱い」を行い、介護現場を混乱させているとのことです。
このような現状に加え、上記のような法人及び職員に損害を与えるような行動に出ているにもかかわらず、被請求者が職制上管理者、上司としての立場にあり、高い賃金を取得していることに職員の方々の不満が噴出したのが今回の要求のようです。請求者は、法人からの回答如何では今後の身の振り方を検討するとも記載しており、この問題は法人内部の厳しい対立状況を生じさせ、また職員の大量離職により運営が成り立たなくなる可能性すら孕むものであり、相当深刻なものです。
なぜ被請求者はこのような労働者間の対立をあおるような行為をとってしまったのでしょうか。
我々は、労働組合の組合員の立場としても、法人内の管理者としての立場としても、被請求者の行動にはやはり不適切であったと考えざるを得ず、請求者による今回のような要求が出てくるのは致し方ないと考えております。
まず、労働組合の組合員の立場からすれば、当然にこの点を組合として法人に問題提起をして解決を求めるべきでした。いうまでもなく労働組合は団結して使用者との交渉に臨み、労働者の労働環境の改善、労働者の権利の実現等を行うことが期待されている団体です。人材不足、教育不足といった労働環境に直結する問題については労働組合が法人と交渉する中で解決することが労働法制上期待されているところであり、これを行うことなく行政機関に丸投げすることは自己の存在意義を放棄するに等しい行為ではないでしょうか。
また、被請求者は管理者としての職責を負っているのですから、職場内において人手不足、教育不足等があるのであれば、それについては自らも対応を考えるべきですし、その点について法人側に現実的な対応を求めるべきでした。また、人手不足、教育不足等については法人内において改善していくことが十分可能な問題なのですから、解決までの迅速さ、十全さを考えればこのような手段に出るべきであったといえるでしょう。他方で、管理者の立場にありながらこれをすることなく、一足飛びに行政機関に通報しなければならない事情というのは考えにくく、何か別の、特別な意図があったのではないかと考えざるを得ないところです。
この点、今回の要求書を見ると、被請求者には上記のような「仕事を円滑に進めお客様のために最適なサービスを実施する」「労働者の労働環境をよりよいものにする」といった通常の発想を前提とした考えとは異なる考えに基づく行為であることが推測されます。
それは、端的にいえば、内山美和子介護主任と丸橋裕子看護職員による、法人に対する嫌がらせです。
上記にも記載の通り、被請求者がすべての労働者のことを考え、労働環境をよくすること、サービスをよくすること自体を目的としているのであれば、法人に対する改善要望をなさずに行政機関に通報することはあり得なかったはずです。被請求者が今回「密告」した結果として、5千万円もの法人の利益が失われ、結果として職員への賞与支払いが困難になり、さらに場合によっては大量離職が発生しサービスの継続自体が危ぶまれる事態になっていることからも、被請求者の「密告」の目的が労働環境をよくすること、サービスをよくすることになかったことは明らかです。そして、要求書では、常日頃内山美和子介護主任が、自身の所属する労働組合に加入する職員と、その労働組合に加入していない職員との間で「明らかな差別的取扱い」を行っていることが明確に記載されております。ここからは、被請求者は自身が所属する労働組合以外の労働環境を改善することやサービス自体の改善の努力をすることなどは全く考えていないことが読み取れます。
他方で、被請求者が所属する労働組合は、既に事業所内の従業員の1/4未満の人数しか組合員がおらず、法人に対する影響力も弱くなってしまっております。これに加え、もとより上記の内山美和子介護主任のように、自身が所属する労働組合の利益のみ追求し、他の労働者の利益や法人の利益を考慮の埒外においているのでは、解決の方向性が異なりすぎて法人との交渉がうまく進むはずもありません。自身の所属する労働組合の交渉が進まず、組合費を受け取りながら大した成果もあげられない中で、事業所内の従業員の3/4以上が所属する組合費無料の首都圏青年ユニオン連合会が次々と労働環境・労働条件の改善を交渉により勝ち取っている現状に危機感を覚え、行政に対する公益通報を建前に法人に対する嫌がらせを行ったというのが今回の真相ではないでしょうか。
今回の被請求者の密告のために、法人は5千万円もの利益を失うことになり、さらに請求者を始めとした多くの職員が離職しないよう対応を迫られております。労働組合は法人と戦うものという考え方からすれば法人を追い詰めている、組合として活動していると見えるかもしれませんが、その実この行動は何ら労働者の利益にはなっていません。むしろ、従業員への賞与が出なくなる、大量の離職者が出ることで現場が混乱するといった可能性を考えれば、労働者に損害を被らせる行動といった方が正確であるとさえ言えます。
このサイトでも繰り返し訴えておりますが、労働組合は労働組合のためだけに活動してはならず、法人と協同して労働者のためによりよい労働環境を作っていく活動をしなければなりません。その意味で、被請求者の行動は労働組合として行うべき行動の本質を見誤った行動と言わざるを得ないでしょう。