救済命令の影響で労働組合自体が崩壊してしまった事例
■旧態依然の労働組合による新興労働組合潰し
宮城労働委員会に係属していた救済申立手続(宮城労委平成30年(不)第2号佐田不当労働行為救済申立事件)について、令和2年10月2日、同労働委員会より株式会社オーダースーツSADA及び株式会社佐田(以下、「佐田社」といいます。)に対して救済命令が出されました。同命令の内容は、申立人であるUAゼンセン佐田労働組合の申立てを認めるものであったことから、本来であれば企業内労働者の利益が図られたものとして、被申立人である佐田社内に従業員組合員を擁する首都圏青年ユニオン連合会にとっても喜ばしい命令であるもののはずでした。
しかし、UAゼンセン佐田労働組合の救済申立ては、企業内で競合する合同労働組合である私たち首都圏青年ユニオン連合会に対する悪意に満ちたものでした。彼らの申立ては、使用者企業である佐田社の不当労働行為を糾弾する形式をとりながらも、組合費無料の労働組合に組合員を奪われつつあることを逆恨みしてのことなのか、実質的には、合理的な根拠な証拠もなく私たち首都圏青年ユニオン連合会が使用者企業と結託しているといった悪質なレッテル貼りを行う、「新興労働組合潰し」ともいうべきものだったのです。
私たち首都圏青年ユニオン連合会は、労働者貴族、専従者による旧態依然の悪しき体制にしがみつく日本の労働組合の在り方を改革するために結成された労働組合であり、そのためにも「組合費無料」を一つの柱として掲げ、真の意味の労働者救済を目的として日々活動しております。
それゆえ、労働者団体同士であるとはいえ、組合活動の展開にあたっては旧体制の労働組合との衝突が避けられない場面があることはもとより覚悟しているところです。本件は、それが顕著に表れた事例の一つであり、本件救済申立手続には、「労働者による新時代闘争」ともいうべき旧態依然の労働組合と新興労働組合との衝突という背景事情があるということができるでしょう。
■証拠に基づかない偏見に満ちた判断を行う労働委員会との闘争
本件救済申立手続は、私たち首都圏青年ユニオン連合会を当事者とするものではありません。
ですが、上記のような事情に基づき、本件手続は「既存労働組合(UAゼンセン佐田労働組合)による新規参入労働組合(首都圏青年ユニオン連合会)潰し」という意味を有するものと考えられることから、私たちにとっても本件手続の帰趨は関心事でありました。そこで、首都圏青年ユニオン連合会から本件救済申立手続の当事者である佐田社に対して本件手続の命令内容等の開示を求めたところ、宮城労働委員会が申立人・UAゼンセン佐田労働組合の主張を鵜呑みにして、佐田社が首都圏青年ユニオン連合会と結託していたといわんばかりの偏見に満ちた判断を行ったことを知るに至りました。
宮城労働委員会の判断は、あまりに事実と異なることばかりだったのです。
その中でも特に私たちが憤りを隠せなかったのは、近年ではおよそ組合活動実態もなかったUAゼンセン佐田労働組合が組合員労働者から組合費を搾取し続けていたこと等に不満を抱いて同組合を脱退した従業員らが組合費無料の首都圏青年ユニオン連合会に加入したという事実について、宮城労働委員会が「従業員の自由意思に基づかない使用者企業による工作活動」と判断したことです。
実際のところ、UAゼンセン佐田労働組合を脱退した従業員らには、同組合の組合費チェック・オフを完全に止めること等を目的として、UAゼンセン佐田労働組合の組合員としての地位不存在確認訴訟を提起し、勝訴している者も複数います。
それにもかかわらず、宮城労働委員会は、合理的根拠も十分な証拠もない申立人・UAゼンセン佐田労働組合による陰謀論のような妄想的主張を鵜呑みにし、脱退従業員らの首都圏青年ユニオン連合会への加入を「使用者企業と首都圏青年ユニオン連合会が結託して既存労働組合の破壊工作活動を行った」といわんばかりの判断を行ったわけです。
これは、事実上「労働者が自身の所属する労働組合を自由に選択する権利」を否定するようなものであって、ひいては、労働委員会自身が旧態依然の労働組合の在り方を助長し、労働者貴族や専従者の既得権益を擁護することにも繋がり、およそ労働者利益の保護を使命とする労働委員会の判断とは思えない所業というべきものです。労働者貴族や専従者の既得権益保護の原因となっている「組合費徴収による組合運営を当然の前提とする現行の労働組合法」という立法の問題点に加えて、新たな労働組合の在り方を提唱する私たち首都圏青年ユニオン連合会の敵は、行政にも存在しているというわけです。
■救済命令後のUAゼンセン佐田労働組合の崩壊
首都圏青年ユニオン連合会についての印象操作・悪質なレッテル貼りというべきUAゼンセン佐田労働組合の救済申立て、そして、これに迎合して出された宮城労働委員会による不合理な救済命令。
「労働者の救済」という名ばかりタイトルのついた茶番ともいうべき本件救済申立手続は、時代の変革期を迎えている現代社会に何をもたらすのでしょうか。本件手続の相手方当事者である佐田社は、本件命令を不服とする再審査の申立てを行ったとのことですが、再審査申立手続の審理も行政機関である中央労働委員会が行うわけですから、首都圏青年ユニオン連合会としては、「どこまで期待してよいのやら…。」というのが正直なところです。
そんな中、本件では、救済命令が出された後、UAゼンセン佐田労働組合を脱退した従業員ら(首都圏青年ユニオン連合会の現組合員も多数います。)が、自発的に、同組合の執行委員長や上部組織であるUAゼンセン宮城県支部に対して抗議や所属時における組合費の返還を請求するという行動に移りました。
そして、それを原因としてかは判りませんが、唯一のUAゼンセン佐田労働組合の組合員となっていた執行委員長が退職する事態に至ったそうです。そうすると、事実上、UAゼンセン佐田労働組合は崩壊することになるのか、首都圏青年ユニオン連合会執行部としても驚きを隠せない展開となっているわけですが、これでは尚更
「本件の救済申立手続は何だったのか」
という、何とも歯切れの悪い事態となってしまったものです。UAゼンセン佐田労働組合は組合活動実態もなく元組合員から組合費を搾取し続けていたわけですから、自業自得といえばそうかもしれませんが、結局、UAゼンセン佐田労働組合が提起した首都圏青年ユニオン連合会に対する「レッテル貼り救済申立て」と、それに漫然と応えた労働委員会の不合理極まりない救済命令は、彼らにとっても何の意義も残らない結果となってしまったのではないでしょうか。
UAゼンセン宮城県支部や宮城労働委員会がこの事態をどのように受け止めるのかは解りませんが、団体利益の保持と各組合員労働者利益の追求が乖離した一つの結果として、この事態を重く受け止めていただき、本当の意味での労働者利益の実現について是非ともご再考いただきたいところです。
他方では、別件の救済申立事件において労働組合法上の「労働組合の自主性」を否定する決定を受けた首都圏青年ユニオン連合会執行部としては、佐田社従業員である各組合員らの行動に本当の意味での労働組合の「自主性」を見たようにも感じております。
立法や行政の変化を待つばかりでは時代の変化に伴う新たな労働者保護は遅れるばかりですので、首都圏青年ユニオン連合会としては、「真の意味での労働者利益の保護のために労働組合として何ができるのか」ということを日々模索し、新しい組合活動を展開し続けていかなければなりません。
本件では、組合員らの自主的な行動に感化される形となりましたが、本件の宮城労働委員会の救済命令は、首都圏青年ユニオン連合会としても改めてこれからの労働組合の課題や使命を認識した事件となりました。
私たちはこれからも新たな時代の労働組合として何ができるのかを模索し続けて参りたいと考えております。
以上