小林・山口検事の生の声を実況中継する
謝罪はする。しかし、その表情は撮影させない。説明はする。しかし、その声は録音させない。質問には答えるが、会見中のメール送信も、インターネットへの接続も認めない。
東京地方検察庁特別捜査部に在籍していた元検事の重大な不祥事について、最高検察庁が開いた記者会見の異様な参加条件が明らかになりました。
弁護士ドットコムニュースによれば、最高検から記者へ送られた案内には、動画・写真撮影、録音、リアルタイムでの画像・音声・電子情報の配信を認めないと記載されていました。参加は一社一人に限られ、会見中のメール送信は禁止され、パソコンを使用する場合にもインターネット接続を認めないという徹底ぶりでした。
弁護士ドットコムニュース「最高検『録音・撮影・ネット接続禁止』記者会見に初参加」を読む

画像に表示された元裁判官の投稿も、この会見について「異常」と評し、第三者委員会が必要だと訴えています。
不祥事を起こした組織が、自ら調査し、自ら問題の範囲を決め、自ら会見を開き、その会見の録音と撮影まで自ら禁止する。これで国民へ十分な説明をしたと言えるのでしょうか。
謝罪の姿も、質問への声も、国民には直接残さない
最高検の会見で説明されたのは、東京地検特捜部に在籍していた元検事が、捜査対象だった女性と性的な関係を持ち、物品の贈与を受けていたという重大な不祥事でした。
報道によれば、山元裕史次長検事は「国民の皆様に対して深くお詫び申し上げます」と述べて一礼しました。しかし、撮影は禁止されていたため、その表情も一礼する姿も映像として記録することはできませんでした。
質疑応答では、元検事と女性との関係が事件処理へ影響しなかったと説明されましたが、その具体的な根拠については、関係者の特定やプライバシーに関わるとして明らかにされませんでした。
他の事件へ影響がなかったと判断したため、過去に担当した事件をさらに調査したり、第三者委員会を設置したりする必要もないというのが、最高検の説明でした。
つまり、検察が検察を調査し、影響はなかったと検察が判断し、その判断の具体的根拠は説明せず、第三者にも調べさせず、その説明を行った会見の原音まで残させないということです。
最高検は「報道機関を通じれば伝わる」と言いました
記者から、録音や撮影を禁止する理由を問われた山元次長検事は、個別事件や関係者のプライバシーに関わる内容を含む可能性があり、やり取りの中で具体的な名称が出ることもあるため、録音や録画を控えてもらっているとの趣旨を説明しました。
別の記者が、この方法では国民へ伝わらないとして見直しを求めたところ、山元次長検事は、報道機関を通じて正確に伝わると考えており、説明のために写真や録音が不可欠だとは考えていないとの趣旨を述べています。
しかし、最高検が依存している「報道機関を通じた説明」とは、記者が手書きしたメモを基に再構成した要約です。
発言の間、声の強さ、質問へ回答するまでの沈黙、同じ質問を受けた際の言葉の変化、質問を遮ったのか、正面から答えたのか。これらは、原音と映像がなければ国民が検証できません。
記者の能力を疑っているのではありません。どれほど優秀な記者であっても、録音を禁止された会見の全発言を、一語一句、正確に再現することはできないという当然の話です。
プライバシーは、録音を全面禁止する万能カードではありません
事件関係者のプライバシーを守る必要があることに異論はありません。実名を伏せ、個人を特定できる部分を非公開とし、撮影範囲を調整することも必要です。
しかし、プライバシー保護と、会見全体の録音・撮影・インターネット接続を一律に禁止することは同じではありません。
個人を特定する質問が出た場合には、その質問へ回答しなければよいのです。公開できない部分を除いた公式音声や全文記録を、会見後に最高検自身が公開する方法もあります。
首相官邸や各省庁の会見では、映像や会見録が公表される例があります。プライバシーへ配慮しながら、記録を残すことは不可能ではありません。
それにもかかわらず、最高検は記者の録音を禁止し、自らも国民が検証できる原音を提供しない。その運用が必要であるというなら、具体的な法的根拠と、より制限の少ない方法では目的を達成できない理由を説明すべきです。
なぜ検察は「生の声」をこれほど恐れるのでしょうか
検察の不祥事を検察が説明する会見で、原音を残させない。この構図は、取調室で起きている問題と驚くほど似ています。
検察官は、被疑者や参考人が話した内容を供述調書へまとめます。しかし、調書に書かれるのは会話の全文ではなく、検察官が選び、整理し、文章化した内容です。
大阪地検特捜部で研修を受けた男性元検事は、被疑者が否認していたにもかかわらず、上司が作った「作文」の自白調書に沿って話を聞き、その内容で調書を完成させるよう求められたと手記で訴えました。
生の会話を聞けば、被疑者が何を否認し、検察官がどのように言葉を変え、どの質問を繰り返したのかが分かります。
しかし、原音がなく、完成した調書だけが残れば、検察官によって整えられた文章が「本人の供述」として一人歩きします。
記者会見でも同じです。生の声を残さず、検察が用意した資料と記者の要約だけを残せば、後から検察官の言葉を正確に検証することは困難になります。
記者クラブによる要約だけでは、取調室の異常は伝わりません
記者クラブに所属する既存メディアが、検察の不祥事を報じることには大きな意味があります。捜査情報の漏洩、ハラスメント、証拠の扱い、検察官の処分といった組織的問題を継続的に取材する役割は欠かせません。
しかし、「検察で捜査情報の漏洩が疑われている」「不適切な取調べが問題となっている」という組織レベルの表現だけでは、取調室で何が起きているかを国民が実感することはできません。
必要なのは、誰が、いつ、誰に対して、どのような言葉を使ったのかという個別具体的な記録です。
小林検事が参考人へ、相手を睨むように見ながら「本当にその態度と内容でよいのですか」「それは正しいことですか」と繰り返したとの情報があります。
さらに、参考人へ「あなたは立場を考えてものを言いなさいよ」と述べたとも伝えられています。
参考人の一人が、その取調べの矛盾を突いて「嘘を言えばよいのですか。検察が欲しい答えが決まっているなら、原稿をください」と返すと、小林検事は慌てたように見えたとされています。
これらは、検察ユニオンへ寄せられた情報であり、取調べの録音録画や取調べメモによる確認が必要です。
しかし、仮に事実であるなら、「参考人取調べに問題があった」という一文へ抽象化して終わらせてはなりません。
「あなたは立場を考えてものを言いなさいよ」という生の言葉こそ、国家権力を持つ検察官が参考人へどのような力関係を示したのかを伝える記録です。
山口検事の生の声も、要約して消してはなりません
山口検事についても、金本重徳氏の取調べで、横浜地検が責任を集中させようとしている人物を悪いと供述しなければ、金本重徳氏自身が最も悪い人物になるとの趣旨を述べたという情報が寄せられています。
金本重徳氏が黙秘へ転じた後には、山口検事が土曜日に「雑談しに来た」として訪れ、「私のことは嫌いですか」と尋ねたともされています。
その際、自分は金本重徳氏を不利にしようと思ったわけではなく、可能な限り寄り添ってきたつもりであり、こうなったのは自分の力不足だったという趣旨を語ったとの情報もあります。
「山口検事が被疑者と雑談した」という組織レベルの要約では、この異常さは伝わりません。
国家権力によって身体を拘束された人物へ、担当検事が「私のことは嫌いですか」と尋ねた。自分はフラットだったつもりだと自己評価を語り、力不足だったと振り返った。
その具体的な言葉を記録して初めて、取調べなのか、弁解なのか、上司へ追い込まれた検事からのSOSなのかという検証が可能になります。
小林検事は外へ圧力を流し、山口検事は内側から崩れ始めたのか
小林検事は、参考人へ「立場を考えろ」と圧力を向ける。山口検事は、被疑者へ「私のことは嫌いですか」と理解を求める。
一見すると、正反対の言動です。
しかし、両者が上司から、特定の供述を取ること、脱税事件としての筋書きを完成させること、検察の見立てを崩さないことを求められていたとすれば、二人の言動は同じ組織圧力から生まれた可能性があります。
小林検事は、自分が上司から受けた威圧を参考人へ流した。山口検事は、その圧力を抱えきれず、金本重徳氏へ自分の気持ちを説明し始めた。
現時点で、小林検事と山口検事本人から、上司によるパワーハラスメントや不当な捜査命令について、検察ユニオンへ正式な通報があった事実は確認していません。
それでも、大阪地検特捜部の元検事が、自白を得るよう上司から追い詰められ、反証となり得る証拠を上司へ報告しないよう求められたと告発している以上、横浜地検にも同種の指揮命令がなかったかを確認する理由は十分にあります。
小林検事の威嚇は、上司から命じられた取調べ方法だったのか。山口検事の不可解な雑談は、上司の命令と自分の良心の間で行き場を失った検事からのSOSだったのか。
録音も記録もなければ、検察は後から「そのような意味ではなかった」「受け手の誤解だった」と説明できます。
だからこそ、生の声を残す必要があります。
実況中継とは、違法な情報漏洩を推奨することではありません
検察ユニオンが求める「実況中継」は、事件関係者の個人情報や捜査上の秘密を無秩序に流出させることではありません。
適法に取得された録音録画、取調べ直後の本人メモ、供述調書、弁護人への報告、公開された裁判資料、公益通報及び関係者の同意を得た証言を基に、誰が何を述べたのかを正確に記録することです。
録音原本があるのか、同時期に作成されたメモなのか、後日の記憶による申告なのか、第三者からの伝聞なのかも区別します。
事件関係者や参考人を特定させる情報は伏せながら、国家権力を行使した検察官の言葉、取調べ方法、上司からの命令及びハラスメントを可視化します。
組織の抽象的な謝罪ではなく、取調室で発せられた具体的な言葉を国民へ伝える。それが、検察による異常な自白強要と冤罪を防ぐための実況中継です。
国民の犯罪被害には「まず警察へ」、自分たちの不祥事には記録禁止
検察ユニオンへ寄せられる相談では、一般市民が犯罪被害を訴えても、「まず警察へ相談してください」「民事の問題ではありませんか」「証拠をそろえてから来てください」と入口で押し返されたと感じる例があります。
被害額が小さい、社会的影響が大きくない、警察が捜査していないという理由で、検察が積極的に向き合ってくれないとの不満もあります。
もちろん、全ての申告を刑事事件として直ちに捜査できるわけではありません。限られた人員の中で、嫌疑、証拠、管轄及び捜査の必要性を判断することは必要です。
しかし、市民の申告には証拠を求める検察が、自分たちの不祥事については、国民が検証するための録音と映像を残させない。
市民には「客観的な記録を出してください」と言いながら、最高検自身の説明は記録禁止の部屋で行う。
この二重基準こそ、検察への信頼を壊しています。
日本の刑事司法は、国際的にも長年批判されています
日本の検察が「世界的に軽蔑されている」という表現を強すぎると感じる人もいるでしょう。
しかし、少なくとも日本の長期身体拘束、自白依存、弁護人が立ち会えない取調べ、否認や黙秘を続ける人物の保釈が認められにくい、いわゆる人質司法が、国際的な人権団体から長年にわたり批判されていることは否定できません。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは2026年の報告でも、日本の捜査・勾留制度が、否認又は黙秘する被疑者を長期間拘束して自白へ追い込むものとして、長年批判されていると指摘しています。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ「世界人権報告2026・日本」を読む
外部から長年批判されても、検察は取調べの全面可視化を受け入れない。不祥事が続いても、独立した第三者委員会を設置しない。説明会見を開いても録音と撮影を認めない。
これでは、国際社会から尊敬される刑事司法制度を作るどころか、批判の理由を自ら積み上げています。
第三者委員会を拒み続ける組織が、記録まで支配する
最高検は、元特捜部検事の不祥事について、第三者委員会を設置する必要はないと判断しました。
しかし、検察内部では、性暴力、二次被害、パワーハラスメント、自白調書の強要、反証となり得る証拠の軽視、情報漏洩その他の問題が次々と表面化しています。
それでも検察が、自分たちの調査は適正であり、第三者は必要なく、会見の録音も必要ないと主張するならば、検察にとっての「適正」とは、外部から検証されないことを意味しているのではないかと疑われても仕方がありません。
第三者委員会は、検察の敵ではありません。検察が本当に適正な調査を行ったのであれば、それを独立した立場から確認し、国民へ示すための仕組みです。
それを頑として拒み、原音まで残させないから、検察は何かを隠しているのではないかという疑念が深まります。
最高検察庁と横浜地方検察庁への公開質問
- 7月29日の記者会見で、録音、撮影、リアルタイム配信、メール送信及びインターネット接続を全面的に禁止した具体的な法的根拠は何ですか。
- 関係者のプライバシーを伏せた公式音声、映像又は逐語的な会見録を、最高検自身が公開しない理由は何ですか。
- 元特捜部検事の行為が事件処理へ影響しなかったとする判断について、誰が、どの証拠を基に決定したのですか。
- 不祥事とハラスメントが相次いでいるにもかかわらず、独立した第三者委員会を設置しない理由を、内部調査への信頼以外の客観的根拠によって説明できますか。
- 小林検事による参考人取調べとされる発言、山口検事による金本重徳氏への発言について、録音録画、取調べメモ、供述調書及び上司への報告記録を保全していますか。
- 小林検事と山口検事に対し、特定方向の供述を得るよう、上司から指示又は成果圧力が加えられていませんでしたか。
- 被疑者だけでなく、参考人を含む全ての取調べを原則として全過程録音録画し、本人と弁護人が検証できる制度を導入しますか。
- 検察職員が上司のハラスメントや違法な捜査指示を、検察組織外へ安全に通報できる独立制度を受け入れますか。
録音を禁止しても、生の声までは消せません
最高検は、録音と撮影を禁止すれば、自分たちの言葉を管理できると考えているのかもしれません。
しかし、取調べを受けた被疑者、参考人、弁護人、退職した検事、現在も検察内部で苦しむ職員が、経験した事実を記録し、外部へ伝え始めています。
「あなたは立場を考えてものを言いなさいよ」
「標的人物を悪いと言わなければ、あなたが一番悪くなる」
Do you hate me?
これらの言葉が実際に発せられたのか。誰の命令に基づくものだったのか。前後にどのような質問と回答があったのか。
検察ユニオンは、抽象的な組織批判だけで終わらせません。個人情報と捜査上の秘密を適切に保護しながら、検察官の具体的な言葉、取調べの経過、上司の命令及び内部ハラスメントを、適法な証拠に基づいて記録します。
小林検事と山口検事の言動が、上司から追い込まれた検事によるSOSなのであれば、その声も握りつぶしません。
ただし、上司から受けた圧力を、被疑者や参考人へ転嫁することは認めません。誰に何を命じられ、どの証拠を無視するよう求められ、どの供述を取るよう迫られたのかを証言してください。
脱税で逮捕されたら、検察ユニオンが実況中継します
脱税事件は、専門的な会計・税務資料と、多数の関係者供述を扱います。その複雑さを利用して、捜査機関が先に事件の物語を作り、身体拘束と取調べによって必要な自白を集める危険があります。
大阪地検特捜部の元検事が訴えたのも、脱税事件で否認供述が出た際、「認めさせること」を至上命題とされ、上司の作文に沿う自白調書を作るよう迫られたという問題でした。
金本重徳氏の事件についても、逮捕前から繰り返し検察へ出向いていた人物を逮捕し、その後に特定方向の自白や責任転嫁を求めたのではないかという疑いが生じています。
そのような捜査を、もう密室の中だけで完結させることはできません。
当組合には、検察内部にも多数の組合員がいます。上司から担当検事へ向けられた暴言、特定方向の調書作成指示、反証を無視するよう求める命令、取調べで発せられた脅迫的な言葉まで、情報は組織の外へ届きます。
最高検が記者会見の録音とネット接続を禁止しても、検察官の生の声を国民から永久に隠すことはできません。
脱税で逮捕されたら、検察内部にも組合員は多数いるので、ハラスメントも含め、適法な範囲で検察ユニオンが実況中継します。



