
旅券返納命令を要請した後、共犯者は逮捕できたのですか
鹿児島地方検察庁は、海外に移住したとされる共犯者について、外務省に旅券返納命令を要請したと報じられています。報道では、熊本国税局との合同捜査により中野爵喜氏を起訴し、別の共犯者については海外に移住しているため、旅券返納命令を要請しているとされました。
それでは、その後、その人物を逮捕することはできたのでしょうか。
外務省は、実際に旅券返納命令を発したのでしょうか。
発したのであれば、いつ、どのような理由により発し、返納期限はいつだったのでしょうか。
発していないのであれば、外務省が要請を拒んだのか、旅券法上の要件を満たさなかったのか、それとも鹿児島地検から提供された資料だけでは処分できなかったのでしょうか。
鹿児島地検が、捜査の進展を示すために旅券返納命令の要請をメディアへ説明したのであれば、その後の結果についても、説明する責任があります。
要請したという段階だけを大きく報じ、その後、返納命令が出たのか、対象者の身柄を確保できたのか、捜査が停止しているのかを一切説明しないのであれば、国民に伝えられたのは捜査の成果ではなく、捜査機関の意気込みだけだったことになります。
旅券返納命令は、検察が出すものではありません
旅券返納命令は、検察官が独自に発する処分ではありません。
旅券法第19条は、一定の場合に、外務大臣又は領事官が、必要性を判断した上で、旅券名義人に期限を付して返納を命ずることができると定めています。また、返納命令を決定した場合には、速やかに理由を付した書面で本人へ通知する必要があります。
つまり、鹿児島地検が外務省へ要請したからといって、返納命令が自動的に発せられるわけではありません。
検察は捜査上の必要性を説明し、外務省は旅券行政を所管する行政機関として、独立して法的要件と必要性を判断しなければなりません。
ここで外務省が、鹿児島地検の要請をそのまま受け入れたのであれば、どの資料に基づき、どの法的要件を満たすと判断したのかが問われます。
反対に、外務省が返納命令を発しなかったのであれば、鹿児島地検が公表した要請は、行政処分へ結び付かなかったことになります。
いずれの場合も、説明すべき事実があります。
旅券返納命令という重大な行政処分を、捜査機関が報道上の演出として利用し、結果が出なければ沈黙することは許されません。
なぜ、その後の報道がないのでしょうか
鹿児島地検の次席検事が、記者クラブを通じて旅券返納命令の要請を説明したのであれば、少なくとも次の事項は、同じ記者クラブを通じて明らかにされるべきです。
外務省は返納命令を発したのか。
発していない場合、その理由は何か。
対象者に通知は到達したのか。
返納期限は経過したのか。
対象者の旅券は失効したのか。
対象者の居住国へ、捜査共助又は身柄引渡しの要請を行ったのか。
現在も逮捕状又は国際手配が有効なのか。
捜査が継続しているのか、事実上停止しているのか。
もちろん、捜査中の事件について、全てを公表できない場合があることは理解できます。
しかし、自ら「旅券返納命令を要請した」と公表し、国外共犯者の存在を捜査成果のように報じさせた以上、その後の行政処分の有無さえ説明しないのは不均衡です。
捜査機関に都合のよい段階だけを公表し、結果が伴わなかった可能性については沈黙するのであれば、報道は捜査の検証ではなく、検察発表の拡声器になります。
捜査が遅滞しているなら、行政の不安定さが表面化した可能性があります
本件が進展していないとすれば、その原因は単に対象者が海外にいるからとは限りません。
旅券返納命令を出す外務省、事業再構築補助金を所管する中小企業庁及び経済産業省、エンジェル税制の確認手続に関与した都道府県、経済産業局及び経済産業省、課税関係を判断する国税当局、刑事責任を追及する検察庁。
本件には、複数の行政機関が関与しています。
ところが、各行政機関が、自ら行った認定、確認、交付決定又は行政回答について責任ある見解を示さず、国税局と検察庁に最終判断を委ねているのであれば、捜査は当然に不安定になります。
検察は、補助金行政の専門機関ではありません。
国税局も、事業再構築補助金の事業目的への適合性を第一次的に認定する行政機関ではありません。
エンジェル税制についても、国税当局は最終的な税務適用を判断しますが、対象企業及び対象投資に関する確認手続には、都道府県その他の経済産業行政が関与しています。
それぞれの所管行政機関が自らの判断を明確にしないまま、検察だけが「不正だった」とする筋書きを組み立てれば、行政認定と刑事評価の間に巨大な空白が生じます。
その空白を、被疑者の供述で埋めようとすることが、本件の取調べの不安定さにつながっているのではないでしょうか。
補助金の不正は、まず所管行政機関が調査するのが制度の原則です
一般的な助成金や補助金の不正受給では、まず、その制度を所管し、支給又は交付を決定した行政機関が事実関係を調査します。
例えば、雇用関係助成金については、労働局が申請書類、賃金台帳、出勤簿、事業実態その他の資料を調査し、不正受給と判断した場合には、支給決定の取消し、返還命令、事業者名の公表、一定期間の支給停止等を行います。重大な事案では捜査機関とも連携します。厚生労働省も、雇用調整助成金の不正受給について、都道府県労働局による調査、公表及び返還対応を行っています。
この流れには理由があります。
その助成金の支給要件を最も理解し、申請時の資料を保有し、支給決定を行ったのは、所管行政機関だからです。
支給要件を満たしていたのか。
申請内容に虚偽があったのか。
単なる記載誤りなのか。
事業計画の変更なのか。
交付条件違反なのか。
返還を命ずべき事案なのか。
刑事告発まで必要な悪質事案なのか。
これらを最初に判断する責任は、原則として、補助金を交付した行政機関にあります。
補助金適正化法は、所管行政機関に調査権限と取消し・返還権限を与えています
補助金適正化法は、補助金の不正な申請及び不正な使用を防止し、予算執行と交付決定の適正化を図ることを目的としています。
同法は、各省各庁の長に対し、補助事業の状況報告を求める権限、是正措置を命ずる権限、交付決定を取り消す権限、補助金の返還を命ずる権限を与えています。
さらに、第23条は、必要がある場合、行政機関が補助事業者に報告を求め、事務所等へ立ち入り、帳簿書類を検査し、関係者へ質問できると定めています。
同条は同時に、この調査権限が犯罪捜査のために認められたものではないとも明記しています。
これは重要です。
行政調査と犯罪捜査は、目的も権限も異なります。
まず行政機関が、自らの交付決定が適正だったのか、交付条件に違反したのか、返還を求めるべきかを行政法上判断する。
その結果、偽りその他不正な手段による受給が疑われ、刑事責任を問う必要がある場合に、告発又は捜査機関との連携へ進む。
この順序が制度上の基本です。
経済産業省自身も、補助金について不正受給の疑いがある場合には、必要に応じて受給者や取引先に対する現地調査を実施し、不正が確認された場合には、補助金適正化法に基づく措置や刑事罰の対象となり得ると説明しています。
したがって、事業再構築補助金について不正を疑うのであれば、本来は、中小企業庁、経済産業省又は事務局が、申請内容、実績報告、支出証拠、役務提供、設備、事業実態を調査し、交付決定の取消し及び返還の要否を明確に判断すべきです。
その行政判断を行わないまま、国税局と検察庁だけが「詐欺」と評価しているのであれば、制度の順序が逆転しています。
自ら交付決定をした行政機関が、なぜ判断を国税と検察へ委ねるのでしょうか
事業再構築補助金は、経済産業行政が制度を設計し、審査を行い、採択及び交付決定を行ったものです。
申請者は、国税局や検察庁へ申請したのではありません。
経済産業行政に対して事業計画を提出し、その審査を受け、採択又は交付決定を受けています。
それにもかかわらず、後になって不正の疑いが生じた際、交付した行政機関が自ら事実確認を行わず、国税局と検察庁に評価を委ねているのであれば、それは行政責任の放棄に近いものです。
交付決定をした行政機関には、二つの可能性があります。
一つは、当初の交付決定が適切であり、その後に提出された実績報告や資金使用に問題が生じた可能性です。
もう一つは、当初の審査自体に不備があり、確認すべき事項を確認せず交付した可能性です。
いずれにしても、まず説明すべきは、交付決定を行った行政機関です。
検察へ事件を渡せば、当初の審査責任が消えるわけではありません。
刑事事件になったからといって、行政機関が自ら行った採択、確認、交付決定及び額の確定について、説明しなくてよくなるものでもありません。
エンジェル税制も、国税だけで作られた制度ではありません
エンジェル税制は、スタートアップへの投資を促進するため、一定の要件を満たす企業への投資について所得税上の優遇を認める制度です。
この制度では、対象企業及び対象投資に関する確認手続が存在し、投資後に要件を満たすと確認された場合、都道府県知事の確認書が交付されます。企業はその確認書等を投資家に交付し、投資家は確定申告に利用します。
つまり、投資家が自分一人の判断だけでエンジェル税制を作り上げるわけではありません。
企業の申請があり、行政による確認があり、確認書が交付され、その書類を用いて税務申告が行われます。
この行政確認が存在する以上、後になって投資の実体や要件充足に疑義が生じたのであれば、確認書を発行した行政機関は、何を確認し、どの資料に基づき、どの要件を満たすと判断したのかを説明しなければなりません。
確認手続に不備があったのか。
企業から虚偽資料が提出されたのか。
行政が確認すべき範囲を限定していたのか。
確認後に事情が変化したのか。
投資家が確認書を信頼したことに合理性があったのか。
これらを整理せず、国税局と検察庁が、投資家の主観だけを追及するのは順序が違います。
行政が認定し、国税が否定し、検察が逮捕する連鎖
本件の最も重大な問題は、行政判断の責任主体が見えなくなっていることです。
経済産業行政は、補助金を採択し、交付する。
都道府県その他の行政機関は、エンジェル税制に関する確認書を発行する。
公認会計士その他の専門家は、制度適用について回答する。
投資家は、これらの行政回答や専門家の説明を前提として行動する。
その後、国税局が、行政認定とは異なる評価を示す。
検察庁が、国税局の評価を前提として逮捕する。
しかし、最初に認定又は交付決定を行った行政機関は、なぜ当初の判断と異なる事態になったのかを説明しない。
この構造が許されれば、市民は行政機関の確認書や交付決定を信用できなくなります。
行政機関の確認を信じても、後から別の行政機関が否定する。
専門家に相談しても、後から検察官が「正しいことだと思ったのか」と聞く。
行政の回答に従っても、その行政機関は責任を取らず、国税と検察だけが市民を逮捕する。
これでは、法的安定性は成立しません。
鹿児島地検と横浜地検の逮捕問題は、国税査察の存在意義まで問い直しています
鹿児島地検と横浜地検の捜査が示しているのは、単なる二つの刑事事件の問題ではありません。
国税局が、補助金行政、産業政策、投資契約、株式取引、コンサルティングの実体及び行政回答まで一括して評価し、その評価を検察が引き継いで逮捕するのであれば、各行政機関の専門的な審査や認定は何のために存在するのでしょうか。
補助金を交付した行政機関が調査しない。
エンジェル税制の確認を行った行政機関が説明しない。
行政回答を行った担当者も表に出ない。
国税局だけが全てを「架空」「仮装」「不正」と評価し、検察庁がその評価を前提に身柄を拘束する。
この構造は、国税局の権限を強く見せるものではありません。
むしろ、行政機関同士が相互に責任を回避し、最後に国税局と検察庁へ判断を集中させる、極めて不安定な行政運営を示しています。
国税局が他の行政機関の認定を自由に覆せるのであれば、補助金審査も、エンジェル税制の確認も、行政照会も不要です。
反対に、各行政機関の判断に意味があるのであれば、国税局と検察庁は、その判断を否定する根拠を明確に説明しなければなりません。
その説明がないまま逮捕だけが先行することは、行政の専門性を破壊する行為です。
熊本国税局が「対面調査しか行わない」とするなら、今こそ熊本国税局は対面で説明してください
国税ユニオンは、熊本国税局が対面調査に固執し、書面による質問や検証を十分に行わなかったと認識しています。
熊本国税局が、対面でなければ真実を解明できないという立場を取り続けるのであれば、北村厚国税局長には、その圧倒的な法理論によって、次の事項を対面で説明していただきたいと考えます。
事業再構築補助金を交付した行政機関は、どのような調査を行ったのか。
交付決定の取消し及び返還命令は出されたのか。
出されていないのであれば、なぜ詐欺として逮捕できると判断したのか。
エンジェル税制の確認書を発行した行政機関は、どの資料を確認したのか。
その確認書は取り消されたのか。
行政確認が有効なまま、投資家に故意があったと判断した根拠は何か。
行政機関及び公認会計士の回答を信頼した人物について、なぜ犯罪の故意又は共謀が認められるのか。
鹿児島地検が要請した旅券返納命令は、実際に発せられたのか。
海外にいるとされた共犯者の身柄は確保できたのか。
できていないのであれば、どの行政判断又は証拠が不足しているのか。
対面調査がそれほど優れた手法であるなら、国税局は、納税者へ出頭を求めるだけでなく、自らも国民の前に出て、これらの法的疑問へ回答すべきです。
このままでは、国税局の査察調査が全行政機関の信用を失墜させます
行政は、分業によって成立しています。
外務省は旅券行政を担当する。
経済産業省及び中小企業庁は産業政策と補助金を担当する。
都道府県は制度に基づく確認事務を行う。
国税当局は税法の適用を判断する。
検察庁は犯罪の成否を証拠に基づいて判断する。
それぞれの機関が、自らの法令、権限及び判断について責任を負うからこそ、市民は行政を信頼できます。
しかし、一つの事件が起きると、補助金を交付した行政機関も、税制上の確認を行った行政機関も、旅券を所管する外務省も説明せず、国税局と検察庁だけが全ての判断を引き受ける。
そして、国税局と検察庁は、各行政機関の判断過程を明らかにしないまま、市民を逮捕し、主観的な反省を求める。
この連鎖が続けば、失われるのは国税局だけの信用ではありません。
行政確認書の信用が失われます。
補助金交付決定の信用が失われます。
専門家への相談の意味が失われます。
外務省による旅券行政の透明性が失われます。
最終的には、行政機関へ事前に確認し、その回答に従って行動するという、法治国家の基本的な行動様式そのものが失われます。
鹿児島地方検察庁への公開質問
海外に移住したとされた共犯者について、旅券返納命令を要請したのは事実ですか。
要請日はいつですか。
外務省は旅券返納命令を発しましたか。
発した場合、返納期限はいつですか。
発していない場合、外務省が要件を満たさないと判断したのでしょうか。
対象者の旅券は現在も有効ですか。
対象者の身柄は確保されましたか。
逮捕できていない場合、その理由は何ですか。
対象者の居住国へ捜査共助又は身柄引渡しを要請しましたか。
旅券返納命令を要請したことは公表しながら、その結果を公表しないのはなぜですか。
事業再構築補助金を所管する行政機関は、独自の不正調査を行いましたか。
交付決定の取消し又は返還命令は出されていますか。
行政機関が不正認定をしていない段階で、検察が詐欺と判断したのであれば、その法的・事実的根拠は何ですか。
エンジェル税制の確認を行った行政機関から、どのような説明を受けましたか。
当該確認書は取り消されていますか。
行政機関の確認を信頼した投資家に故意があったと判断する客観的証拠は何ですか。
発表した以上、最後まで説明してください
鹿児島地検が、海外共犯者への旅券返納命令要請をメディアへ説明したのであれば、その後の結果まで説明してください。
逮捕できたのであれば、その事実を公表してください。
逮捕できていないのであれば、なぜできていないのかを説明してください。
外務省が返納命令を発しなかったのであれば、その事実を明らかにしてください。
事業再構築補助金を所管する行政機関が不正認定をしていないのであれば、なぜ検察が先に詐欺と判断したのかを説明してください。
エンジェル税制の確認書が現在も有効なのであれば、なぜその確認を信じた投資家を逮捕できるのかを説明してください。
行政機関が自ら行った決定について説明せず、国税局と検察庁だけが市民へ責任を負わせることは、行政の安定ではありません。
責任の所在が消失した行政です。
このままでは、熊本国税局の査察調査が明らかにするのは、脱税の事実ではありません。
外務省、経済産業省、中小企業庁、都道府県、国税局及び検察庁の誰も、自らの判断について最終責任を負わないという、行政全体の不安定さです。
国税局と検察庁が本当に正しいと考えているのであれば、逮捕という結果だけではなく、各行政機関の判断がどこで、なぜ、どのように誤っていたのかを、法令と証拠によって説明してください。
そして、旅券返納命令を要請したと公表した鹿児島地検は、要請後に何が起きたのかを、記者クラブを通じて最後まで公開してください。



